Nursing
クリスSide 01
だるいな……
私がそれをはっきりと自覚したのはディアスロンドを出発しようとした朝だった。
目はしっかりと覚めているのに頭がぼんやりするし、なんだかなにもかもが億劫だ……。
「クリス?」
のろのろと歩く私に気がついたのか、エイプリルが振り向いた。
「クリスさん、大丈夫ですか?」
それにつられ、ノエルも振り向き、心配そうに声をかけてくれる。
……でも、それに答えるのさえも……めんどくさい。
「クリス!?」
糸を切られたように体から力が抜けた……。
意識が奈落に引き込まれていく……。
最後にみたのは仲間達の慌てる顔……、最後に聞いたのは、感じたのはトランの……
「二人とも宿に戻りましょう!」
……誰かの話し声が聞こえる。
「過労、ですか……?」
「えぇ、ここまでハイピッチで旅をしてきたでしょう?」
「あ、あたしが早く行きましょうって急かしたから……」
それは違う!
そう、彼女に言ってあげたかったが、声を出すことはおろか、まぶたをあけることすらできない。
「ノエルが責任を感じる必要はありませんよ。この神殿の犬が自己管理を怠ったせいです」
ノエルを慰めてくれるのはありがたいが、その言い方は気に入らない。
「でも……」
「大丈夫、しばらく眠れば元気になりますよ。だからノエルは宿の手続きをして来てください」
「……わかりました」
パタパタと足音が離れて行く。
「……トラン」
「なんです?」
「本当は、どうなんだ?」
…………
……なんだ、この重苦しい沈黙は。
もしかして私はこのまま……?
「過労、というのは嘘ではないですよ。……でも原因は違う」
「……続けろ」
「この間のガーベラとの戦いの大怪我のせいです……」
「……傷は治したのだろう?」
うん、傷はきれいに治っている。
「傷は魔法で治せても、失った体力までは戻りません。……下手をすれば消し飛んでいたような大怪我。それを無理矢理に魔法で治して……、そして体力が戻る前にまたひどい怪我をおった。思えばここまでもっていたのも奇跡ですよ!」
苦しそうに自分を責めるように吐き捨てる。
そんな、トランが責任を感じる必要なんてないのに……
声をかけてやりたいけど、体がいう事をきかない。そもそも何を言えばいいんだか……
「エイプリル、どこに?」
「ノエルの所に。それに一応医者にみせておいた方がいいだろう」
「……そうですね、お願いします」
一人分の足音が遠ざかってゆく。
……待て。
つまり私は今、トランと二人っきりなのか!?
なんか、イヤだな……
私の横たわる寝台が軽くきしんだ。
間近に人の体温が感じられる。
どうやらトランが寝台に腰掛けているらしい。
「……まったく、手間をかけさせて」
……悪かったな!
「こんなになるまで我慢するなんて……」
……?
何かが頭を撫でている。
……トラン?
「つらいならつらいと、口に出してくれればいいのに……」
その声はひどく優しくて……・・
彼が私の事を心配しているのだと感じさせてくれる。
意外だった。
今までさんざん小競り合いを繰り返してきた彼が私を心配するなんて。
……頭を撫でていた手が離れた。それと共に、そばにあった彼の体温も離れる。
「……ゆっくり、おやすみなさい」
…………うん、おやすみ。
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Scribble <2006,11,23>