Nursing

トランSide 01


 シャリシャリシャリ……
 スー、スー、スー……
 静かな部屋にりんごの皮を剥く音とクリスの寝息だけが響く。
 今日も、目を覚まさないのだろうか……
 クリスがいつ目を覚ましてもいいようにと、交代で彼のそばについている……。けれど彼が目を覚ますならこの時間だろうと、わたしは確信していた。
 その時間は共に旅を続けるうちに覚えた彼の起床時間。規則正しく生きてきた彼のことだから、こんな時でもそれは変わらないだろう。
 シャリ、シャリ。
 スー、スー、スー……
 りんごが剥き終わっても彼が目を覚ます気配はない。
 彼のために剥いたこのりんごは、また無駄にわたしの腹におさまるのだろうか……。
「クリス……」
 声をかけても目を覚ます気配はない。
「まったく、この神殿の犬は、人をこんなに心配させて……」
 そこでわたしは不思議な感覚にとらわれた。
 悪の組織の幹部たるこのわたしが、神殿の犬を心配するなんて……
 いや……、本当はもう、気付いている。
 でも、それを認めるわけにはいかない。
 わたし自身がこの少年を、クリスを心配しているだけなのだとは……
 剥いたりんごを机に置き、彼に話しかける。
「もう、よく眠ったでしょう。はやく起きて、ノエル達を……」
 わたしを……
「安心させてください……!」




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Scribble <2006,11,23>