History not chosen
History of dividing T
メラメラと何かが激しく燃え盛る音が耳に届く。
鼻につくオイルの燃える臭いは、きっと自分から流れ出した体液が燃えているせいだ。
目が、霞む。手も、アースブレッドの射ちすぎでだるくてあがらない。
もう、自分はとどめをさされるのを待つばかりの敗者にすぎない……。
「トラン=セプター……。ダイナストカバルの誇り高き戦士よ……。何か言い残す事はないか」
剣をかまえる神殿騎士ゴウラの言葉にトランは首を振った。
「言い残せる事は、ありません……」
「なら、何か叶えたい望みはないか……」
その言葉にはトランは少し首を傾けた。
「あなたは、わたしを殺すのでしょう? だったらその言葉は意味がない。あなたは神殿騎士としてダイナストカバル幹部を見逃すわけにはいかず、わたしはダイナストカバル極東支部長の名と誇りにかけて神殿に命乞いなどするつもりがない……」
一息つくと、もうそこで限界だったのか、体を支えられなくなった。それでもトランは言葉を止めなかった。
「わたしの死は、クリスを傷つける。わたしはまだ、エイプリルに借りを返していない。ノエルの旅に付き合ってあげると言ったのにわたしは! わたしは最後まで彼女のそばにいてあげられない……!」
瞳から一筋の涙が零れる。
「本当は、わたしは……」
……まだ死ぬわけにはいかない!
「でも、あなたを恨むつもりはありません。この結果はわたしの戦術ミスの招いた結果。……むしろ敗れた相手があなたのような武人でよかったとさえ思います……」
冷たい雨が降りしきる。しかしその雨は恵みの雨とはなりえない。その証拠にこの雨は村を焼き滅ぼそうとする炎は消し止めようとせず、ただ自分の体の熱を奪っていくのみ。
……そうこれはきっと自分への罰だ。
小さな母を悲しませ、仲間への借りも返せず、傷つけ、残していく自分への罰。
「……ごめんなさい」
その言葉を最後に、トランの意識は途絶えた……。
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Scribble <2008,08,09>