History not chosen

To the stage of the fight! W


「着陸します! 何かに捕まって!」
 光の竜を無事に倒したノエルたちは、ディアスロンドの戦闘艦の援護を受け、テニアまでたどり着くことが出来た。
「なんとかなりましたね」
「ああ。だが、今から本番だ」
「はい! でも大丈夫ですよ! みんなと一緒なら神竜を倒せます!」
「ノエル、そのことなんですが……」
 トランが気まずそうに顔をふせ、ノエルから距離をとった。
「わたしは……共にいけません」
「な! なんでですか!?」
 トランは両腕をかきいだき、苦しげな声を漏らした。
「腕の修理は完全に終わっています。……しかしそれと引き換えに、わたしは戦う力を失った」
 彼が言うには、移植した腕に、拒絶反応をおこさせる生体火器を取り除いたために、メイジとしてのほとんどの能力を失ったのだという。
「だから……わたしはここで待っています。……大丈夫ですよ。あなたたちが戦っている限り、ゾハールもこちらにちょっかいをかける暇はないでしょう」
 精一杯の笑顔を見せ、こう続ける。
「だからわたしはここで祈って……。いや、ここは悪の幹部らしく、呪いをかけましょうか」
「呪いって……。縁起悪いことすんなよ」
 クリスの抗議の声を軽く無視して、トランは笑顔を消し、静かに言った。
「もしも、あなたたちの誰か一人でも命を落としたら……わたしはそのあとを追う」
「待て!? 何を言ってるんだお前はっ!」
「そうですよっ!? なんでそんなこと言うんですか!?」
 詰め寄るクリスとノエルの二人を引き剥がし、また一歩二歩と彼らから体を離す。
 そして彼は穏やかな微笑みで語りかける。
「だから……エイプリル、皆を支えてください。彼らがバカな考えをもたないように。レント、皆に勝利を導いてください。皆笑って帰れるように。クリス、皆を守ってください。そしてあなたも死なないで」
 一人一人、しっかりと瞳を見つめて、言葉をつむぐ。
 この言葉は彼らを信用しているからこそ、形にできるのだ。彼女なら、彼なら必ずやり遂げると、わかっているからこそ、はたされることのないだろう約束を口にできる。
 そう。彼女なら必ず……。
「そしてノエル……。何があってもあきらめないでください。わたしはあなたたち四人が帰ってくるのを、待ってますから。あなたに、わたしの命を預けます」
 共に旅をして、同じ飯を食べ、肩のふれあうほどそばで無防備に眠った。
 そんな彼らは自分にとって組織に次ぐ、第二の家族。
 愛する家族を信じずして、何を信じよと?
「お前の決意はわかった。でも本当について来てくれないのか? 戦えなくていい、そばにいてくれるだけでもいいんだ」
「クリス……無茶を言わないでください。わたしが共に行けば、あなたは無駄な労力を使うことになる。しかも、力ないわたしは頑健なあなたとは違い、ノエルの盾になってあげることさえ出来ない……」
 トランとクリスのやり取りに、凛とした女性の声がわってはいった。
「ならば、その役目……あたしが引き受けましょう」
「ガーベラさん!」
 その声に振り返ってみると、そこには剣を杖代わりにした満身創痍のガーベラがいた。
「ガーベラさん……ひどい怪我……」
「わたしが治しましょう。それくらいなら、今のわたしにもできます」
 トランが彼女に駆け寄り、あらんばかりの力でヒールをかける。
 傷の癒えた彼女をあらためて見てみれば、繰り広げていたのだろう、激しい戦いのあとが見てとれた。
 美しい髪は埃にまみれ、服も至るところで敗れ、血で汚れている。そして……防具にいたっては、全て破壊され、残っていなかった。
「間に合って、よかった。剣をふるう力は、あたしにも残っていませんが、幸いなことに、この体は丈夫に出来ています。ノエル様……あたしをあなたの盾にお使いください」
「使うって……。だからガーベラさんは物じゃないんですから!」
「お二人の命を救えるのなら、あたしは物でいい」
 ノエルには受け入れられないが、ガーベラはその命を彼女らのために使うことになんの迷いもない。
 ガーベラは神竜に作り出された人工生命だが、彼女の主は……、ガーベラに心を与えたのは、代々の薔薇の巫女である。
 そして今、当代の巫女の命が危機にさらされているのだ。この命、今使わずしてどうするのだ。
「ノエル……。気持ちを受け取っておけ。ガーベラは、お前を守りたいと言ってるんだ」
「でも……!」
「ノエル、ちょっと……」
 ノエルの耳にクリスが何事か耳打ちする。
「じゃあ、それで! ガーベラさん、剣を貸してください」
 ガーベラから受け取った剣を両手で捧げるように持ち、気持ちを落ち着けるために大きく深呼吸する。
 ガーベラは彼女が何をしようとしているか理解し、膝をついて頭をたれた。
「ガーベラ……。あなたを、あた……じゃなくて私、ノエル=グリーンフィールドの、騎士に任命します……」
 口上は途切れ途切れで、その手順だって、随分と簡略化してある。
 けれど、彼女らが自分に、人であれ――と望んでいるのが痛いほど伝わってきた。
 それならば自分は人として、戦わなければいけない。
 それに……。
「薔薇の巫女の騎士ガーベラ、お受けいたします」
 剣を受け取り、それにそっと唇をよせる。立ち上がり、花のような微笑みを浮かべて言う。
「これで、あたしはノエル様の騎士として、人として戦えます」
 ガーベラだって、人として、彼女らのそばにいたいという気持ちが、ないわけではないのだから。
「はい! 一緒に戦ってください!」
 ノエルに笑顔とともに手渡されたのは魔力持つ本、マビノギオン。これを用いて神竜の結界を破壊するのが、自分の第一の役目。
「さあ、行きましょうノエル様」
「はい! 神竜を倒して、お母さんを助けて、みんな一緒に帰りましょう!」
 この笑顔を信じよう。ノエルと彼女の仲間たちを信じよう。
 八百年前は失敗したが、今度は大丈夫だ。
 自分たちの勝利を信じ、その先の未来を信じる彼女なら運命なんかに負けはしない。
「トランさん……」
 ノエルはトランを見つめ、遊びに行くような気軽さで言った。
「いってきます!」
「いってらっしゃい。ちゃんと、帰って来てくださいね」
「はい!」
 愛する仲間に見送られ、ノエルたちは決戦の地へと赴いた。




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Scribble <2008,01,10>