History not chosen

To the stage of the fight! V


「トラン! もっとスピードを出せないのか!?」
「無茶を言うな! 動力機の内一基が、まったく動いてないんだ! これが……精一杯です!!」
「兄さん! 残りの二基の内、一基が焼ききれそうです!」
「風はずっと強い向かい風か……。ついてねえな」
 順調にいくと思っていたテニアへの空の旅だったが、事態は急変した。
 風向きが変わったのを皮切りに、次から次に事態は悪化していく。
 まるで、彼らをゾハールのもとに行かせないようにするように。
「……間に合うんでしょうか」
「間に合いますとも! 最悪、船を大破させることになっても、制限時間内にあなた達をテニアに送り届けます!」
 目まぐるしい速度で操縦機器を操り、叫ぶ。
 伝えるべきことを伝えた今、自分が彼らにできることは、これだけなのだ。
 何があったとしても成し遂げてみせる!
「兄さん! あれを!」
 レントの指差す方向に、光の玉が二つ生まれた。それは翼をのばし、爪や牙をはやして、その体を作り上げ、こちらに飛んでくる。
「光の竜!? ノエルを行かせない気か!」
「迎え討つぞ!」
 颯爽と操縦室から飛び出して行こうとしたエイプリルの背中に、トランは叫んだ。
「エイプリル! 地下の格納庫に行ってください! 押収されていなければ……ウィンドホークがあるはず!」
「……準備がいいな」
「こんなことのために、先に積み込んでいたわけではないのですけどね。レントも、第二倉庫にレビテートローブがあるはずです」
「わかりました。押収されていないことを祈りましょう」
「あの、あたしたちは?」
「……すいません。人数分はないんです。二人は船上で戦ってください」
「わかりました! 行きましょうクリスさん!」
「はい! ……ってトラン、お前は?」
 ノエルを追いかけて、操縦室から出ようとして、ふと気付く。
 トランが共に来ようとしないのだ。
 高度、方向を設定して自動操縦にできるなら、彼が離れても大丈夫そうなのに。
「……わたしは、戦えません」
「え?」
 戦えない!?
 どういうことだ?
 彼は……腕の治療を終えて、自分たちのもとに来てくれたのではなかったのか?
「説明はあとでします。ほら、早く行って! わたしは船の操縦がありますから!」
 腑に落ちないまま、クリスはノエルたちの待つ戦場へとむかった。




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Scribble <2009,01,03>