フォア・ローゼスin世界樹の迷宮
第四階層
クリス なんだか空気がよどんでいる気がするな。
ノエル じめじめしてますね……。
エイプリル フカビトが住処にしているらしいからな。しかたがないだろう。
トラン それよりあれを見てください。なにかしらの装置のようですよ。
レント ……あそこにある格子と連動しているようですね。
クリス にしてもファンシーな。
ノエル かわいいですね。
トラン フカビトを模したつもりならかわいく作りすぎです。
エイプリル ……。
レント どうした、エイプリル。
エイプリル 少し調べて来たんだが、これはある一定の方向から潜ると閉まっちまうみたいだな。
クリス それがどうかしたのか? フカビトが棲息しているくらいだし、完全に閉じ込められることはないだろ。
エイプリル 確かにそうだが…… 下手すると狭い通路にFOEと共に閉じ込められるぞ。
クリス げ。
トラン これはうまく使えば……。
レント ええ。 FOEだけ閉じ込められそうです。
トラン というか利用しなければ戦わずに進めないでしょう。
エイプリル&クリス 任せたトラン、レント(肩ポン)。
トラン いや、あなたたちも考えてくださいよ。前を歩くんだから……。
レント というか構造もわからないのに考えて進むのは不可能だ。
ノエル なんですか、これ?
クリス 蔦? なんか実がなってるな。
ノエル 食べられるんですか?
トラン どうでしょう。
レント 毒はなさそうですがパサパサしていますね。
エイプリル 毒はないが不味いな。
トラン ……いつの間に。
ノエル 勝手に食べちゃダメですよ、お腹を壊したらどうするんですか!
エイプリル ヤバそうだったら吐き出すさ。
クリス 一階では若葉食っ――(トラン・レントに口を塞がれる)
トラン (小声で)一階での惨劇を忘れたんですか!?
レント (小声で)キミはいい加減学習しろ。
ノエル あ、クジュラさん! 怪我はもう大丈夫なんですか?
クジュラ ああ、もう大分いい。心配かけたな。お前たちに婆さんからの伝言だ。――アマラントスは神殿奥の儀式の間にあるそうだ。
クリス 神殿奥……。ここより深いのか?
クジュラ らしいな。結果的にフカビトを倒しながら進むことになる。まあ、ゲートキーパーを倒したお前たちなら大丈夫だろう。
トラン 詳しい場所はわからないんですよね。
クジュラ 俺達海都の人間はここまで来たことがないからな。……それにここらの魔物は強すぎて兵士を調査に出すのもためらわれる。
エイプリル 俺らで探すしかないってことか。
クジュラ いや、俺が独自で探索してみよう。何かわかったら教えてやるさ。
ノエル ありがとうございます!
レント ……。(魔物が強いから。海都の将軍が一人で探索する理由がそれだけなのか……?)
クリス なにか聞こえないか?
エイプリル ああ。空気が通るような音だな。
ノエル ここら辺に抜け道でもあるんでしょうか?
クリス 探してみますか。
トラン でもこんなところに有用な抜け道はなさそうですよ。
レント あったとしてもこちらからは開通できないだろうな。
ノエル じゃあ、無視して先に進みましょう!
エイプリル (数十歩進んでから振り返って)……あれは大蛇の舌の音だったか。無視して正解みたいだったな。
エイプリル 待て。
クリス ……魔物がいるな。
ノエル 足下で何か光ってますね、なんでしょうか。トラン 冒険者の習わしとして。――殺して奪い取りますか。
クリス キャラにあわんことを……。
トラン この先であの銀の輪が必要になるかもしれませんからね。
レント ならば先手必勝というわけですか。
トラン ええ。みなさん怪我はありせんか? TPはじゅうぶん?
ノエル はい! あたしは大丈夫です!
エイプリル ならいくぞ。心してかかれよ、血の臭いに引かれた魔物が追加で来るかもしれねえからな。
クリス 行き止まりか。
エイプリル みたいだ、な――。
ノエル ど、どーしたんですかエイプリルさん!? なんだか不自然に固まっちゃって。
エイプリル (無言で足下を指差す)
トラン な、なんだか変に沈んでません?
レント ……罠か?
エイプリル わからん。踏む前なら調べようがあったんだが――。
トラン ……だが?
エイプリル こうして踏んじまった以上足をのけても罠は作動する。ならいっそ……! (思いきり床を踏み込む)
クリス な、なんだか変な音が……。
ノエル あ、見てください。壁が割れて棚みたいのが出てきましたよ。
クリス これは……薬瓶か。トラン、これは使えるのか?
トラン (匂いを嗅いで)痛んではないみたいですよ。せっかくだから頂いちゃいましょう。
ノエル うーん……。
トラン どうかしましたか、ノエル?
ノエル クジュラさんとオランピアさんのお話のことです。クジュラさんの言ってた古い兄妹のお話、そのお兄さんって……。
トラン きっと深王のことですよね。
ノエル ……でも深王さまは妹さんのことを忘れてる。
クリス しかししかたがたないような気もします。なにせ彼が地上を離れたのは百年前。きっと妹は亡くなってしまっているでしょう。
レント いや、そうとも限らない。中には百年以上生きる者もいる。それに妹姫が亡くなっているのならばクジュラ将軍が今さらあんな話をするとも思えない。
エイプリル 深王の妹は生きている。……もしかすると。
レント わたしも同意見だ。彼女は元老院も認める海都の姫なのだから。
ノエル じゃあ、あたしたちが白亜の供物を見つけて彼女に届ければ……!
トラン 深王の願いは果たされる。たとえ彼が忘れ果てていても。
ノエル がんばりましょう、トランさん、クリスさん、レントさん、エイプリルさん! みんなが幸せになれる方法を探すんです!
【白亜の供物】…どんな怪我や病も治すという伝説の品。
ノエル うー……。
クリス 穴ですね。
エイプリル ああ、穴だな。
トラン これはちょっと飛び越えられないかも。
レント 少なくともわたしと兄さんは無理ですね。
ノエル 穴は……穴はダメです、危険ですよ!
エイプリル だが周りを見てきたが落ちるしかないみたいだぜ。
ノエル ……トランさーん。
トラン いえ、わたしに訴えられても。
レント (覗きこんでいる)高さはそれほどまでに高くはないようです。
クリス 低いとも言えないが、これくらいならなんとかなりそうだな。
エイプリル なら落ちるぞ。……ノエル、バンジージャンプは好きだろう?
ノエル 紐なしのバンジーはただの飛び降りですよ!?
エイプリル 甘い匂いがするな。
クリス ああ。鼻の奥にこびりつくような甘ったるい匂いがする。
ノエル これがアマラントスの花の香りなんでしょうか。
トラン 香りまではわかりませんが形状は聞いてきましたから探しましょう。
ノエル えーと、確か……あ! ありましたよ!
レント では摘んで帰りましょう (カラフルな包装紙を取り出す)
クリス こら待て。それはなんだ、というかどこから出した。
レント 花を包むための包装紙を道具袋から出しただけだが?
クリス わざわざそんな物を用意したのか!?
トラン ……え?(きれいなリボンを取り出している)
クリス お前もかトラン!?
トラン いや、だって。薬にするとはいえお姫様に届ける花ですし。
ノエル わあ、レントさんすごいです。あっという間にきれいな花束ができましたよ!
トラン あとはリボンをつけて、と。はい、クリス。(花束を手渡す)
クリス なぜ私? 依頼の品はギルドマスターが届けるのが筋では?
トラン せっかくのきれいな花束なんですから見目のいい青年が渡す方が絵になるでしょう。
クリス 可愛らしい少女とか、容姿端麗の女性が渡してても絵になると思うけどな。
レント (ノエルから順に指さしていく)剣を持って前線で戦うノエル、銃を持って前線で舞うエイプリル、皆を回復するためにせわしなく手を動かす兄さん、そして術を放つために冷気をまとうわたし。花を持つ余裕はない。キミが適任だ。
クリス ……なんか暗に私が戦闘中に楽してると言われてる気が。
エイプリル 気にしすぎだ。
ノエル そうですよ! お姫様に届けるまで、そのお花を守ってください。
クリス (毒気を抜かれたように微笑んで)……わかりました。
ノエル お姫さまは百年間、ずっとお兄さんのことを思っていたんですね……。
レント 彼は自らの意思でフカビトと戦うために海底へと沈んだ。――しかし彼女にしてみれば、その命をくだした世界樹に兄を奪われたに他ならない。
クリス しかもその兄は記憶を消されている、と。確かに奪われたと言ってもいいな。
トラン しかし……。
エイプリル 何か気掛かりなことでもあるのか、トラン。
トラン 彼女はあらゆる方法で寿命を延ばしてきたと言っていましたが、その方法が気になります。
クリス アマラントスの花を使ったりしてたんだろ?
エイプリル クリス、あそこは長らくゲートキーパーに封鎖されていたんだぞ。
レント それ以前に神殿は深都からの迷宮にある。……深都自体見つけられていなかった彼女らには入手できない。
トラン それに彼女は若いままなんですよ、普通の方法でそんなことが可能だと思いますか!?
ノエル なにか良くない方法を使って寿命を延ばしたってことですか?
レント 一つの仮定なのですが。……百年間閉じ込められている"彼"。彼の力の激減した理由が彼女に力を譲渡したからだとしたら。
エイプリル 突飛もない仮定だな。
トラン ただ肉体の時間を止めるほどの方法というのが思い付きません。
クリス だとしたら皮肉な話だな。兄を追うために兄の敵の力をすがったってことだし。
エイプリル ま、どっちにしろ今は仮定にしか過ぎねえ。――俺らのやることは変わらねえだろ、ノエル。
ノエル 転移装置を探すんですよね。
トラン そうです。……何をするにしろ、今わたしたちがすることに変わりはありませんね。
クリス ノエルの望むハッピーエンドを模索しつつ、わたしたちのすべきことをしましょう。
エイプリル 壁が崩れてるな。
クリス だけどここで行き止まりのようだし問題ないよな。
ノエル あ、なんか瓦礫の下からなんかはみ出てますよ。
トラン これは水晶のツルですね。
ノエル ……この瓦礫、持ち上がるでしょうか。
レント 少なくともノエル一人では無理ですね。
クリス みんなで力を合わせて持ち上げてみるか。他の所が崩れる心配はなさそうだしな。
ノエル じゃあ、いきますよー。せーの!
――まったく持ち上がらない。
トラン ぜ、ぜんぜん駄目ですね……。
エイプリル やっぱりと言うかトランとレントの所が上がらねえな。
レント ……すまない。
トラン すいません、兄弟共々、非力なもので……。ノエル 冒険を続けて、もっと力をつければ持ち上がるようになるんでしょうか。
エイプリル かもな。
トラン でも術師二人ですし、持ち上がるのが先か冒険が終わるのが先か――難しいところですね……。
クリス これは……何かの意匠か?
ノエル ここはフカビトさんの絵じゃないんですね。
トラン でも、何か少し物足りないような……?
レント ……なにかがかけていますね。
エイプリル トラン、モンスターを倒して手に入れた銀の輪はお前が持っていたな。俺に貸せ。
トラン はい? ……ああ、なるほど。
エイプリルは銀の輪を壁にはめ込んだ!
ノエル あ、なんか出てきましたよ!
トラン これは英知のピアスですね。TECをあげるアクセサリーです。
ノエル ならトランさんかレントさんですね!
トラン いえいえ、いりませんよ。
ノエル えー! 似合いそうなのに。
レント わたしも兄さんもピアスの穴もあけていませんから。
エイプリル (そっと太い針を差し出す)
トラン わざわざ空けたりしません! っていうかなんでそんな物持ってるんですかエイプリル!
ノエル これ、なんでしょう。光っててきれいですね。
トラン フカビトたちの住む神殿に魚のオブジェですか。いやな感じはしませんが……。
クリス もしかしたらフカビトたちがここを占拠する前に深都の人たちが作った物なのかもな。
エイプリル とりあえず調べてみるか。(ペタ)
レント エイプリル、魔術的な品かもしれないのにそんな無防備に触れては……!
ノエル あ、なんか光が広がって……。
全員のHPが80、TPが60回復した!
エイプリル よくはわからんが、とりあえずいい物だったみたいだな。
レント しかし……。
エイプリル 次からはちゃんとお前たちに頼むから拗ねるな、レント。
レント 拗ねてなどいない!
ノエル 深王さま、オランピアさん……。
深王 卿らには伝えたはずだ。海都の危機、人類の危機を……。
ノエル はい。ですから話し合いましょう! 共に手を取り合って一番いい方法を――。
深王 それはできぬ。海都は我が祖国。フカビトの手に落ちるのを見ているわけにはいかぬ。(転移装置に飛び込む)
ノエル 深王さま!
オランピア ――先に行かせはしない。深王さまは人を排除する考えは持たれてはいないけれど、私は違う。
ノエル オランピアさん……。
レント 彼女は言って聞くような者――いやモノではありません。覚悟を決めてください、ノエル。
ノエル でも……!
クジュラ ソイツの相手は俺に任せろ、俺はコイツに借りがあるからな。
ノエル クジュラさん!
オランピア ……まとめて海の藻屑と化せばいいだけ。来い、雷をまといし獣よ!!
ノエル どうして!? どうしてオランピアさんとクジュラさんが! 深都と海都が! あたしたちが戦わなきゃならないんですか! 答えてください、オランピアさんっ!!
トラン ダメですよ、ノエル。レントが言ったでしょう、言って聞くようなモノじゃないって。
クリス そして彼らには――オランピアには深王の背を守るという、クジュラ将軍には部下たちの敵を討つという理由がある。私たちでは彼らの戦いは止められません。
エイプリル 無駄口も余計なことを考えるのも後だ! まずはあの獣を倒すぞ!!
ボス戦後
ノエル オランピアさん、クジュラさん!
クジュラ ……俺の名が後か。
トラン いや、オランピアには聞きたいことがあったから先に名を呼んだだけかと。――へそを曲げないでください。
クジュラ べ、別に気になどしていない。
エイプリル オランピアは逃げたみたいだな。
クジュラ ああ、さすがに不利を悟ったんだろう。――これを。
ノエル この鍵は?
クジュラ あの女が落としたものだ。何かの役に立つかもしれん。
レント これは……断罪の間を封じていたものと同じ鍵です。
クジュラ ……痛っ。
クリス ひどい怪我じゃないないですか! 今、回復を!
クジュラ 俺はいい。それよりも早く深王が転移装置を使ったことを元老院に報告してくれ。
トラン あの先が何処に繋がっているのかも気になりますが……。
クジュラ ああ。それを確認してからでもいい。
クリス なら手分けしましょう。幸い私のTPは余っていますからあなたの怪我を治します。だからクジュラ将軍は先に元老院へ報告を。私たちはあの先がどこに繋がっているか確認してから元老院に向かいます。
クジュラ そうか、助かる。
エイプリル アリアドネの糸は?
クジュラ 持ってないが大丈夫だ。お前たちが回復してくれたおかげで怪我はない。ここらの魔物ていどなら瞬殺できる。
トラン いや、そうじゃなくて。普通に歩いて戻ったら時間かかりますよ。だから予備をあげますから、糸を使ってください。
クジュラ 何から何まですまんな。いつか必ずこの恩は返す。
トラン いいんですよ。―― あなたが来てくれたおかげでノエルをオランピアと戦わせずにすみましたから……。
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Scribble <2013,03,11〜2012,06,17>