フォア・ローゼスin世界樹の迷宮
第五階層
トラン さて、休む暇もなく次のミッションが出されたわけですが――どうしますか。
エイプリル そのどうするってのは、いつ受けるかとかいうタイミングの話じゃねえよな。
トラン とーぜん! わたしたちがどうすべきかという話です。
レント ミッションを受けなかった場合と受けた場合の結果を想定してみたが――どちらも良いとは言えないな。
ノエル どういう結果を考えたんですか?
レント まずは受けなかった場合。深王たちはグートルーネ姫の所まで必ずたどり着くでしょう。そしてクジュラ将軍だけでは深王とオランピアを止めることは不可能に近い。――よくてオランピアと相討ちといったところです。
エイプリル そして姫さんは逢いたくてたまらなかった兄貴に殺される、か。
トラン だからと言って無計画にミッションを受けるわけにもいきません。ただの感情論では深王は止められない。
クリス 彼は姫のことを忘れている。証拠もなしに信じてはくれないだろうな。最悪、彼を殺すことで止めるしかないか。
ノエル 深王さまが記憶を取り戻さなきゃダメなんですね。――だったら白亜の供物はどうでしょう?
トラン 実在するならば、なんらかの手だてにはなりそうですが……。
エイプリル だがな、どこにあるんだノエル。俺たちはクジュラの語ったおとぎ話でしかそれを知らないんだぞ。
ノエル 知っている人を探すとか……。
レント グートルーネ姫やフローディア老はもちろんのこと、深王やオランピアも知らないでしょう。彼女らが知っているならば深王にそれを使うことをミッションにするでしょうし、深王は記憶自体が曖昧のようですから。
クリス オランピアは?
レント 白亜の供物を知っているならば、彼女は真っ先に深王に使うだろう。
クリス ……それもそうだな。
ノエル じゃあ真祖さんはどうでしょう? 確か百年以上は生きてるんですよね。
トラン ……そうですね、彼がいましたか。
エイプリル 人間でないあいつなら俺たちが知らない伝聞なんかも知っているかもな。
レント ただそれをわたしたちに教えてくれるかどうか……。
ノエル 悩んでいてもしかたがありません! 行きましょう、みなさん! 何か少しでも可能性がある限り、あきらめたくないんです!
真祖 久しいな、人の仔よ。僕と話でもしに来たのか。
ノエル はい。真祖さんにお話を聞きに来ました。
真祖 ……その前に一つ尋ねよう。 ――僕らは人を食糧とし、人はそんな僕らを恐怖する。それでも僕らは友となれると思うか?
ノエル ――なれると思います。
真祖 後のお前たちも同意見か。
クリス ……素直に頷くのは難しいが否定はしない。
レント 事実わたしたちがそうだからな。
エイプリル お前と違い、殺し合う関係でこそなかったか、俺らはノエルを取り合う敵同士だった。
トラン でも今は見ての通り、寝食を共にし、命を預けあう仲間です。お互いに少しずつ歩み寄ればフカビトと人も手を取り合うことも可能でしょう。
真祖 ……そうか。――今、この場所に来たお前たちがそう答えることはわかっていた。……いや、期待していたという方が正しいか。
ノエル ……あっ!?
道具袋から空の玉碗と星海の欠片が飛び出し真祖の手の中に収まった。
真祖 お前たちの求めていたのはこれだろう?
真祖の手の中で玉碗の中の欠片がまばゆく光り、白く輝く物体となった。
真祖 さあ、それを僕の血を受けた姫と世界樹に憑かれた王に持っていけ。その白亜の供物があれば姫は人間に戻り、王は記憶を取り戻すだろう。
レント そうか、やはり姫は……。
ノエル 痛っ!
クリス ……ノエル!?
ノエル あれ、なんともない。
真祖 姫が人間に戻りし時、彼女に貸し与えていた力は僕に戻り、人の絶望はより深くなる。――その手に与えた印に従い僕の所まで来い。姫のためにもな。
エイプリル まさかお前は……。
真祖 さあ、行け! 運命に翻弄された兄妹の結末を悲劇で終わらせぬために!
ノエル ……はい!
ノエル うわあ、真っ白!
レント これはいわゆるダークゾーンというものか。
クリス いや、単なる霧だろ。
エイプリル にしても伸ばした手の先も見えないな。
トラン はぐれないようにロープでお互い繋げますか。(ごそごそ)
ノエル あ、モンスターですよ!
トラン できる限り固まって戦ってください! はぐれると合流できないかもしれません!
クリス 努力はする!
――戦闘終了後
ノエル あたしたちってどっちから来ましたっけ?
クリス さ、さあ?
トラン エイプリル、わかりますか?
エイプリル わからねえな。……俺はけっこう派手に動いたからな。
レント 大丈夫です、兄さん。わたしがわかります。こんなことを想定して一歩も動かず方向の転換もしていませんでしたから。
エイプリル やけに攻撃を派手にくらってると思ったら……。
トラン クリス、次からの霧の中の戦闘はレントを庇うことに専念してください。
クリス ああ、わかった。……気付かなくてすまなかったな、レント。
レント いや、いい。わたしも事前に相談すべきだった。
トラン やれやれたいへんでしたね。
ノエル こわかったー。
クリス 後ろを振り返ったらカマキリが鎌を振り上げてるんだものな。
レント 文献によると、何人もの冒険者が奴の鎌の前に散ったという。
エイプリル 即死は防ぎようがないからな。
トラン 予防の号令でもそれだけは防げません……。
クリス それにしてもここは空気が澄んでいるな。
エイプリル 魔物の気配も今はないな。
トラン じゃ、少しだけ休憩しますか。
ノエル レントさん、お水飲みます?
レント いただきます。
クリス すー……。
トラン はー……。
エイプリル 深呼吸もいいが、そろそろ行くぞ。
トラン ……そうですね。魔物が来る前に行きますか。
ノエル また霧で前が見えませんよ……。
トラン そしてみなさん、悪いお知らせがあります。
レント ……なんですか?
トラン 先程、星体観測を使ってわかったのですが……ここにもカマキリがいます。
クリス ……え゛。
エイプリル トラン、霧の中での星体観測は?
トラン ……無効です。
レント つまり、自分の目で実際に見て動かなければならないのですね。
トラン いいですか、一歩一歩を慎重に歩いてくださいね。うっかりヤツに捕まったりしたら、誰かの首がとびます――比喩じゃなくマジで。
ノエル し、深呼吸。すーはーすーはー……。
クリス 覚悟はいいか? 行くぞ、みんな生きてこの霧を抜けるんだ!
【星体観測】…FOEの位置をマップに表示する。
ノエル なんですか、これ。……木の門?
トラン これは鳥居ですね。東の方ではよく見ましたよ。
クリス でもなんでこんなところに?
レント ……魔力を感じるな。
エイプリル この鳥居の先しか道はないみたいだな。
ノエル じゃあ、横に並んでいっせいにくぐりましょうか。
トラン そしてカラドボルグの神殿のようにベチンとはねられる、と。
クリス ないない、それないって。……ないよな、レント?
レント 拒絶するような力は感じないな。
エイプリル ぐだぐだ悩んでてもしかたねえ。くぐるぞ。
ノエル せーの! ……あれ?
トラン どうやらあれはワープ装置だったみたいですね。
クリス こっちにも同じのがあるってことはさっきの所にも戻れるみたいだな。
レント ……。
エイプリル 何を難しい顔してる。
レント 地図をどう書けば……。
トラン とりあえず他の紙に書いて、宿に帰ってからみんなで見比べながら清書しましょう。
エイプリル 何か匂うな。
ノエル 本当ですね、甘くていい匂い。
クリス あ、あれじゃないですか、あの果物。
エイプリル よく熟れててうまそうだな。
トラン 確か毒はなかったはずですから食べれますよ。
レント しかし何か注意すべきことがあったような……。
エイプリル うまいな。
ノエル すっごく甘いです!
クリス でも果汁が……。
トラン あーあ。ベッタベタじゃないですか。
レント ……思い出しました。
トラン 何をですか?
レント その果汁の甘い香りは空腹の魔物を引き寄せます。
ノエル えっと、つまり果汁でよごれてるあたしたちって……。
トラン ただでさえ美味しそうな餌が、さらに美味しそうに見えるでしょうねえ。
エイプリル ……来るぞ。準備はいいか。
クリス かろうじてな。
トラン リミットは惜しみ無く使っていきましょう。連戦になりそうです。
ノエル ……はい!
トラン ……。
ノエル トランさん顔色が悪いですよ。少し休憩しましょう?
トラン いえ、大丈夫です。今は先を急がないと。
エイプリル だからといって、無理をし過ぎて倒れたりしたら意味ないだろう。ほら、そこに座りやすそうな岩があるから、休憩するぞ。
トラン すいません……。(岩の上に座る)
ノエル 日の光で温まって気持ちいいですね。
トラン はい。なんだか癒されるようです。
レント ……。
クリス ……レント?
レント ……。(真っ白に燃え尽きている)
エイプリル ……当たり前だがレントだって術師なんだから同じように疲れてるよな。
ノエル あの、レントさん……だいじょうぶ?
レント ……(こくりとうなずく)。
クリス いや大丈夫じゃないだろう!? お前は表情に出づらいんだから、せめて嘘つくな!
ノエル わあ、三つ葉がたくさんあって、まるでベッドみたい。
クリス そうですね。まるでおとぎ話の世界みたいだ。
ノエル 四つ葉とかも探したらあるんでしょうか。
エイプリル あるかもしれねえな。……だか。
ノエル はい。今はお姫さまのことが優先ですよね。
トラン それにここは王家の森。遊ぶ場所じゃありませんよ。
ノエル あんまり荒らしちゃいけませんよね。
レント きっとここ以外にもこういう場所はあります。だから全てが終わって、もし今度このような場所を見つけたら、その時はいくらでもあなたに付き合います。
ノエル はい! ありがとうございます。
姫 ……お兄様! 私です! グートルーネです!! ………お兄様、どうして?
深王 我を兄と呼ぶ者なぞ存在しない。我は海都最後の王、フカビトの力を借る魔物が妹であるはずもない。
クジュラ 姫、下がってください! 王は今、話せる状態じゃない!
クリス ちょっと待った!
トラン どうやらギリギリ間に合ったみたいですね。
ノエル お姫さま、深王さま、お話の前にこれを食べてください!
グートルーネ それは白亜の供物? 伝説の品が本当にあったの……?
深王 あらゆる異常を癒す奇跡の品。たとえそうであっても我にそんなもの必要などない。
レント あなたがどう思っていようと、わたしたちはあなたの異常を知っている。――あなたが友と呼んだオランピアから聞いたのだから。
エイプリル 嘘だと思うんならオランピアに聞いてみな。
深王 ……オランピア?
オランピア 深王さま。どうか、彼らから白亜の供物をお受け取りください。
クジュラ 姫、あなたも。兄上と再会できたのだから、もうフカビトの力は必要ないでしょう。
グートルーネ ええ、そうね。
深王とグートルーネは白亜の供物を口へと運んだ。
グートルーネ あ。体が……。深淵からの声が聴こえなくなった……。
深王 我はなぜこんな大切な者を忘れていたのだろう。……すまなかった、グートルーネ。
グートルーネ お兄様!
ノエル よかった。これでみんな幸せになれますよね。
トラン ええ、そうですね。
ノエル ……痛!
なんとノエルの手に不気味な紋様が浮かび上がっている。
ノエル これって……。
クリス 真祖が呼んでいるか。
エイプリル 俺たちは海都の姫の兄に逢いたいという願いと深都の王の古い願いを叶えた。だから……今度は真祖の願いを叶える番だ。
ノエル 真祖さんの願い?
エイプリル ここでは話せねえ。真祖にあってからだ。(小声で)……でないとお前が動けなくなっちまうからな。
真祖 ようやく来たか、人の仔よ。
ノエル 真祖さん、大人に……?
真祖 姫が人間に戻ったことにより、彼女に貸し与えていた力は僕に戻った。だから……僕は神に従い人間を狩り始める。
ノエル どうして……! だって友達になれるかってきいたじゃないですか!? 友達になれるってあたしが言って――嬉しそうに笑ってくれたのに!
真祖 迷いがない、と言えば嘘になる。だから断ち切るのだ、君たちと戦って!
真祖の姿がみるみるうちに変わっていく!
エイプリル ノエル、剣を抜け。覚悟を決めろ。俺たちは奴の願いを叶えに来たんだぞ。
ノエル ……願い?
エイプリル ただ力を取り戻したいならば、姫が深王に殺されるのを待っているだけでよかった。本当に人を狩りきるつもりなら、誰も寄せ付けず眷属を増やし続けるだけでよかった。だがあいつはそれをせずに姫を救い、俺たちをここに呼んだ。
トラン そして彼は、わたしたちの命を断ち切るとは言っていません……。
クリス じゃあ、もしかして真祖は……?
レント あるいは――彼はわたしたちに託しているのだろう。……人の敵となって生きるか、人の友として死ぬか、を。
ノエル ……。――真祖さん、あたし負けません! あなたの友達として、あなたを倒します!
ノエル この迷宮での冒険も終わりですねー。
トラン そうですね、長いようで短い日々でした。
エイプリル 深王と姫はこの土地を離れるとか言ってたな。
レント ああ。定住できる場所はダイナストカバルの方で探した。とりあえずユージーンの元に託そうかと。
エイプリル ああ。あそこなら二人がどんな人間でも気にしないな。
トラン なので二人には明日わたしたちが乗り込む船の時間を教えてあります。みんなで彼らをユージーンの所まで送りましょう。
ノエル でもきっと二人とも来ないですよ?
クリス ねえ、ノエルさん。
ノエル ねー、クリスさん。
トラン ?
・・・・・・・・・・・
トラン そして本当に二人は来なかったわけですが。しかもノエルとクリスが出立を急がせるし。
エイプリル いったい何したんだ、二人とも。
クリス 姫や深王の周りの人間に『彼らと一緒にいたい気持ちが少しでもあるなら引き留めろ』って説得したんだ。
ノエル お姫さまたちだって、みんなといっしょにいたくなくなったわけじゃないんですから、ここに残った方がいいですよ。――お二人を慕ってくれるみんながいるあの都に。
レント それもそうですね。もう姫はただの人間ですし、深王の機械の体も深都を知るあそこならば受け入れられるでしょう。
エイプリル ん、あれは……。
クジュラ おい、離せ!
オランピア 駄目。あなたは私と違い、海に落ちたら溺れ死んでしまう。
ノエル 海の上に立ってませんか、二人とも。
レント いえ。足元をよく見てください。何か白いものが見えます。
トラン あれは海王ケトス? 世界樹の力で復活してたんですね。
オランピア ケトス、これ以上はあなたは近づけないから待っていて。あそこまで飛ぶから捕まって、クジュラ。
クジュラ 捕まるのはいいが大丈夫なのか、オランピア。
・・・・・・・・・・・
クジュラ すまなかったな、フォア・ローゼス。船出を見送りに来れなくて。
オランピア 二人を引き留めている間にみんなが出立したと聞いてやって来た。
クジュラ 姫たちからも謝罪の言葉を預かっている。申し出を無断で反故にしてすまない、と。
オランピア そして深王様たちからこれも預かってきた。深都と海都からの信頼の証だ。
クジュラ もしも困ったことがあったら連絡してこい。海都も深都も、全力でお前たちを助けよう。
オランピア 少なくとも私たちはあなたたちの所へ駆けつけるから、必ず連絡して。
ノエル クジュラさん、オランピアさん……。
レント それだけか。他に何か問題が起きたからこんな所まで追いかけてきたのでは?
クジュラ お前たちに感謝の言葉を届けるというのが第一の目的だな。あとはまあ……あれからわかったことがあるといえばあるんだが……。
オランピア フカビトの神に通じる迷宮が見つかった。けれど、あなたたちは気にしなくてもいい。今度こそ私たちの手で解決するから。
クジュラ 姫がファランクスの修行を始めたり……。
オランピア 深王様がシノビの才を持つウォリアーを探したり……。
トラン 止めましょう、メタ発言っ!
クジュラ まあ、今度は純粋に観光にでも来い。迷宮に潜ってばかりで海都自体はあまり見てないんだろう?
オランピア 深都も、これから広く開放して行く予定だから。
ノエル はい! 絶対にまた遊びに行きます!
クジュラ さらばだ、フォア・ローゼス。本当にありがとう。
オランピア ありがとう、フォア・ローゼス。あなたたちのこと、私は決してメモリから消さないから。
ノエル はい。お二人とも――いいえ、みなさんお元気で!
【姫がファランクス〜〜〜メタ発言】…裏ボス必勝法にプリンセス/ファランクス、ウォリアー/シノビで戦う方法があるんです。
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