Change
01
「入れかわり!入れかわりですよエイプリルさん!」
「なんなんだ急に」
「これです!」
興奮気味にノエルが突き出したのは一枚のカードだった。
一組の男女が向かい合って手を繋いでいる絵だ。そのまわりには複雑な呪字が刻まれており、裏には神殿公認の証である印章があった。
「なんでもこのカードの端を二人で持つと、その二人の精神が入れかわるそうなんです」
「ほう……」
もう一度、絵をよく見ると、向かい合う男女の足元からのびる影が男と女、逆になっている。
「冒険になんの役に立つかわからんが、立派な魔法アイテムだ、高かっただろう」
「え? えへへ〜」
「無駄遣いするんじゃない」
ごまかし笑いをするノエルの頭を小突いてから、にやりと口の端をあげる。
「……入れかわって何がしたいんだ?」
「えっと……あの……あたしってトランさんと付き合ってるじゃないですか」
あの組織第一の男が色恋に興味を持つとは意外だったが、事実彼女らはいわゆる恋人同士というやつだ。
「なのにトランさんから好きって言われたことなくて」
「で、奴の気持ちが知りたいってわけか?」
「はい……」
はたから見れば、トランはノエルにだけべた甘で、言葉ではなく態度で気持ちを示しているのだが、本人にはわからないらしい。
「……で、俺がノエルの体を使って聞き出して来たらいいんだな」
「あ、いえ。それは自分で。……だって自分の耳で聞きたいじゃないですか!?」
そのままキャーキャー身もだえるノエル。
……なんというか、恋する乙女はおもしろ……ではなくかわいらしい。
「なるほどな、面と向かってきくのは恥ずかしいから俺の体を使いたいのか」
結局きくのは自分なのだから、そうかわらないんじゃないかと、疑問に思ったが口には出さない。
頬を赤く染めながら、こくこく頷くノエルの眼前にカードをひらつかせ、エイプリルは楽しげな笑みを浮かべた。
「で、いつやるんだ?」
「わ〜♪体がすっごく軽いですよ〜」
赤いスカートをふわりと広げ、長い金髪をなびかせて、くるくる回るエイプリル。
「俺の体で遊ばんでくれ」
栗色の髪をかきあげて、しぶい顔をするノエル。
普段とまったく逆の仕草をする二人、無論精神入れかえ済みである。
「すごいですよ、エイプリルさん!体がすっごく軽くて、すばやく動けます!」
はしゃぐエイプリル(中身ノエル)を尻目にノエル(中身エイプリル)は林檎を取り出した。そして両手で持って左右へと引っ張る。
パカンッ!
……切目も入れていないのに、真っ二つに割れた。
「……ふむ、さすがウォーリア」
「ってへんな事試さないでください!」
「だが、この体で半日過ごすんだ。具合いを確かめておかないとな」
林檎を噛りながらノエルが言う。
「そ、それもそうですね!」
受け取った林檎をまぐまぐと食べながらエイプリルがこたえる。
「……というかな、そのままだと一瞬で中身はノエルだってバレるぞ?」
「そうでしょうか……」
「……自分で言うのもなんだがな、俺はそんな可愛らしい女じゃない」
「エイプリルさんは美人さんじゃないですか」
「いや、そうじゃなくて。……そうだな、お前みたいな話し方をするトランをどう思う?」
……数瞬後、エイプリルが吹き出した。
「お、おおおかしいと、思い、ます……」
……ツボにハマってしまったようだ。肩が震えている。
「だろ? 今のお前がそれだ。そのまま行ったら、トランには間違いなくバレる」
「どうしたらいいでしょうか」
「……俺の話し方を真似るしかないな」
「わかり、じゃなくて……わかった、努力しよう」
……無駄に難しい顔をするエイプリル。そうしていれば、それらしく見えないこともない。
「…………行ってこい」
その言葉にエイプリルが無言で頷く。そのままどこかぎくしゃくした動きで部屋を出ていく彼女の背を見送りながら、ノエルはぽつりと呟いた。
「……いつまでもつのやら」
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Scribble <2007,11,10>