Meaning that color shows
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「これ、何ですか?」
そう言うノエルの眼前には可愛らしい形の小瓶が数個。それぞれ色鮮やかな液体で満たされている。
「ああ、それか? ダイナストカバルの露店で買ったんだ。……一応惚れ薬って触れ込みだったぜ」
エイプリルが小瓶の中から桃色の液体に満たされた物を選び、ノエルに投げ寄越す。
「え?」
「やるよ。そんなにあっても使いきれないしな」
「って言われてもどうすればいいんですか?」
「そりゃまあ、飲むなり飲ませるなり好きにすればいいさ」
「飲ませる……」
ノエルがくるりと視線を走らせる。だが男性陣はちょうど外出中だ。
「あの! あ、あたし出かけてきます!」
「ああ、行ってこい」
ノエルを見送ったエイプリルはというと、今更ながら小瓶と同封されていた仕様書を読んでいた。それによるとこれはコップ一杯程度の水に溶かして飲むのが一番よいようだ。
「ただいま、エイプリル」
「……なんだ、クリスか」
「なんだはないだろう?」
「トランだったら茶菓子でも用意させようと思ってたんだがな」
「……ああ、そういえば。ノエルはどうしたんだ? さっき入れ違いに出てったんだけどトランを探してたみたいだから」
それを聞いたエイプリルが愉快げに口のはしをあげる。
「なんというか……分かりやすいな、ノエルは」
「は?」
「いやな、これをノエルにやったんだよ」
「なんだ、そ」
「退いてください、クリス。邪魔です」
「あ? ああ、悪いな。というかトラン、ノエルに会わなかったか? さっき探してたぞ」
「わたしをですか? なんでしょうねえ」
「なんか切羽つまるような顔だったが」
そのセリフを聞いたエイプリルはとうとう吹き出した。
「もてる男はつらいな、トラン?」
「はい?」
「いやな、これをノエルにやったんだよ。触れ込みを教えてやってな」
「いや、だからそれは何なんだ?」
「惚れ薬っていう触れ込みだったぜ」
「もちろんただのジョークアイテムですがね」
「ノエルは本気にしてるだろうがな」
「そうなんですか……?」
「顔がゆるんでるぞ、トラン」
「いや、だって……ねえ?」
「いや。ねえって話を振られても困るんだが。結局それは何なんだ?」
トランは咳払いを一つすると、小瓶の中から黄色の液体に満たされた物を摘まみあげて朗らかに笑いながら言った。
「……二月、三月のイベント用に作った物でして、中身は水に溶かして飲むジュースです。青なら嫌い、ピンクなら好きという風に中身の色によって伝える思いが違うって仕様です」
「黄色は?」
「……なんでしたかね。確か喧嘩友達とか、そんな物だったような」
首を傾げながらそれをクリスに手渡す。それを受け取ったクリスはそれを味見するべくコップに水と共に投入した。
「きれいだな」
「味もいいですよ。なんていったってダイナストカバル製ですから」
クリスが嫌そうに顔をしかめるが否定はしない。トラン自身の料理の腕やカバル焼きの味からして、それは間違いなく事実なのだろうから。
「味は?」
「ああ、それはちゃんと覚えてます。ピンクが桃味で、青ならブルーベリー、緑がミント味。そして黄色が」
説明を最後まで聞かず、クリスは黄色の液体を口内に流し込む。
「香り広がるカレー味です」
クリスが口の中身を吹き出したのは、そんなトランのセリフと同時だった……。
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Scribble <2011,11,21>