Meaning that color shows
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「どうしよう、どうやって飲んでもらおう」
一方その頃、ノエルはというと、もらった小瓶がジョークアイテムとは知らず、どうやって彼にそれを飲ませるかに頭を悩ませていた。
可愛らしい小瓶をきゅっと握りしめ、困ったように眉を寄せる彼女は保護欲を刺激して、たいへん可愛らしい。
「うー」
そもそも、惚れ薬なんかに頼るのはどうかと思う。こういうのはちゃんと告白して、応えてもらわなければ意味がないような気が……。ああ、でも自分が好きなのはあの組織ラブのトランだし……。
「うー」
意味もなくうなる。
罪悪感とそれに勝る彼への恋心で頭がごちゃごちゃになる。
その頭の中を少しでも軽くしようと、ノエルは改めて小瓶を見てみた。
まん丸の小瓶の中にはトロリとした桃色の液体で満たされている。よく見てみるとコルクにハートの焼き印が押されていた。
「……かわいい」
しかし今はこのかわいらしさが余計だ。桃色でハートマークといえば連想して行き着く先は限られている。これではごまかして飲んでもらうことはできない。
「中身だけ飲んでもらえばいいかな」
しかしどうすればいいのだろう。液体はちょうど大さじ一杯程度の量だ。まさかスプーンの上にあけて、『あーん』などとはできない。……スプーンを差し出したらトランは付き合って口をあけてくれそうだが、自分が恥ずかしくてできない。
「何かに混ぜればいいのかな……」
液体は見るからに甘そうだが、事実はわからない。しかし味見をするわけにもいかないし。
蓋をあけてちょっとだけ匂いをかいでみる。桃に似た甘い香りがするからきっと甘いのだろうなと予想する。事実は不明なままだが。
「ああ、いたいた」
のんびりした声が頭上からふってきた。その声につられて上を見上げて見れば、そこには穏やかに微笑むトランの顔。
「ト、トランさん!?」
あわてて小瓶を懐に隠す。
「クリスに聞きましたよ。わたしを探してくれていたんですよね。何のご用ですか?」
「ああああの! ええっと……」
心臓が壊れたように早鐘をうち始める。ドキドキが酷くて気が遠くなりそうになる。
「ノエル、大丈夫ですか? 顔が真っ赤ですよ」
トランが手袋を外して額に手をあててきた。本来なら温かく感じるはずの彼の手が冷たい。それほどまでに、自分の顔が赤く熱くなっているのだろう。
「宿に帰りませんか。それともどこかの茶屋にでも入って休憩しますか?」
……茶屋。そうだ、そこならば……。
「休憩、します……」
「アイスクリームの美味しい店を知っているんです。そこに行きましょう」
にっこりと微笑むトランに手をひかれて歩きだす。
「手もずいぶん熱くなってますね。でも冷たいものを食べればきっと冷めますよ」
「はい」
どんなに冷たいものをとってもこの熱はきっと冷めない。……覚ましたくない。
……トランを好きだというこの気持ち、手をつなぐだけで幸せだと感じるこの気持ちは。
心の中でそう呟いて、ノエルは桃色の液体で満たされた小瓶を握りしめた。
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Scribble <2010,11,28>