You who might not encounter it
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公園の野原で居眠りしてしまったのは確かに悪いと思っている。
だが財布には小銭しか入っていないし、ロッドは部屋に置いてきた。ハットも顔の上に置いていたのだ。誰かが盗ればすぐに気付く。
いや、しかしハットを顔の上に置いて居眠りしたのが仇になったのだろう。
「あう。うぶぅ」
だが! 誰がこんな事があると予測できる!?
目を覚ましたら赤ん坊が自分の上に乗っかってたなんて……。
「あなた……お母さんはどうしたんです?」
推定一歳の赤ん坊を抱き上げてトランは立ち上がった。周りを見渡して見るが母親らしき女性は見当たらない。
「あぅ〜」
赤ん坊が首を横にふった。……いないとでも言いたいのだろうか。
「迷子ですか?」
「うぅ〜」
赤ん坊がまた首を横にふった。やっぱり返事してる?
「そんなわけないですよねえ」
というか、こんなに小さな子が単独で迷子になるとも思えない。だとしたら捨て子なのだろうか。
「うーん」
もう一度周りを見てみるが、周りには何もない。身の回りの物もなしに、この子は旅の魔術師であるトランの上に乗せられていたのだ。
普通捨てるならもっとちゃんとした家庭や神殿の前に捨てるのではないのだろうか。
それとも親はこの子が野たれ死んでもよいとでも思ったのだろうか。
「そんなことはないですよねえ」
トランは赤ん坊をあやしながら、その子の顔立ちを観察した。
柔らかな白雪色の髪に夕闇色の瞳、目鼻立ちも赤ん坊と思えないほど整った愛らしい子だ。
「こんなに可愛い子を捨てるなんてあり得ませんよね」
「あうあうあう」
高い高いされていた赤ん坊が小さな手をトランへと伸ばす。
「ん?」
胸の中にくるむとキュッとしがみついてきた。
「わたしはあなたのお母さんじゃないですよ」
しかし困った。こんなに小さな子を放置していくわけにはいかないし、かといって連れて行ってしまっては母親が探しに来た時わからなくなる。
「う〜」
トランの考えが伝わったのか、赤ん坊の眉がへの字に曲がる。
「ああ!? 泣かないで! お母さんが見つかるまで一緒にいますからね?」
赤ん坊が顔を胸に埋めたのを確認して、ホッと息をはく。そしてトランは近くの露天へと歩を進めた。
「すいません」
「はい、いらっしゃーい」
「いえ、買い物ではなくて。この子のお母さんを見ませんでした?」
「なんだ兄さん、嫁さんに逃げられたのかい?」
「違います! というかわたしの子でもないし!? ……こほん。どうやらこの子は迷子のようなんです。ここに放置していくわけにはいかないので、連れて帰ろうと思ってるのですが、もしこの子を探す母親がいたら、緑の杯亭のトランという魔術師が預かっているとお伝え願えますか」
店主がにこやかに店の品物を叩く。
「ああ、すいません。気がききませんで。これとこれをいただけますか」
たいして必要でもないが店の品物を幾つか買い込む。そうして財布からなけなしの金を支払うと店主は満面の笑顔で胸を叩いた。
「よっしゃ任せとけ! 見かけたら必ず伝えとくよ」
「ありがとうございます」 店主との交渉がすんだその時、背後から名前を呼ばれた。
「トランさんお買い物ですか?」
「ああ、ノエ」
「わあ! どうしたんですか、その子! すっごく可愛い!」
ノエルが赤ん坊の頬をチョンとつつく。するとその子は嬉しそうに笑い、ノエルの指を捕まえた。
「ちっちゃーい、可愛い〜」
「あー」
「可愛い〜。ね、トランさん、抱っこさせてもらっていいですか?」
「宿に帰ってからね。……今のままだと鎧がこの子にあたってしまいますから」
「あ、そうですよね。じゃあ早く帰りましょう」
「はい。では店主、お願いしましたよ」
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Scribble <2009,08,09>