You who might not encounter it
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途中である施設に寄って育児グッズを借り、この子を拾った経緯を話しながら宿に帰ってきた。
「はあ。この子は迷子ちゃんなんですか」
「そうみたいです。ああ、ノエルあまり力を入れては苦しがりますよ」
赤ん坊をノエルに預け、トランはというとリンゴをすりおろしていた。半分をすりおろし、残り半分は食べやすい大きさにカットする。
小さな匙ですりおろしリンゴを少量すくい、赤ん坊に声をかける。
「はい、スノウ口を開けて。あーん」
一瞬の間をおいて開かれた小さな口の中にすりおろしリンゴを放り込む。
「んむんむんむ」
とても美味しそうに食べている。
「おいしいですねー。もっとたくさん食べましょうねー」
赤ん坊が口を開く。トランがその中にすりおろしリンゴを放り込む。まるで雛鳥に餌を与えているようだ。
「おいしいねー、スノウちゃん。……あれ? この子の名前わかったんですか?」
「いえ、わからないんですがいつまでも名無しじゃ不便なので。……まあ、あだ名ということで」
「そうですよね。いつまでもこの子とか呼ぶのはかわいそうですもんね。ねー、スノウちゃん」
「あう」
……赤ん坊、いやスノウが手をあげて返事をした。……なんてものわかりのいい赤ん坊だろう。
「なんだノエル、いつの間にトランと子を作ったんだ?」
「つつつつくってません! というかエイプリルさんいつの間に来たんですか!?」
「ついさっきな。……で、こいつはどうしたんだ」
スノウの頭を撫でるエイプリルにトランは顔を赤らめたまま答えた。
「どうやら迷子のようで。こんな小さな子を放置出来ないですから保護してきました。……名前がわからないので勝手にスノウと呼んでますが」
「スノウ……。髪が白いから?」
「ええ。まるで綿雪のようなきれいな白でしょう?」
「にしても安直な」
「安直な方がいいんです。……情が移っては離れ難くなりますし」
「あう〜」
スノウはエイプリルに撫でられて嬉しそうに笑っている。もっと撫でてほしいとばかりに両手を彼女に伸ばす。
「……。俺は、赤子には嫌われやすいんだが」
正確には嫌われているわけではない。エイプリルは情報部十三班に所属する、いわゆる裏社会に生きる人間だった。その世界に住まう者がまとう独特の気配、大人ならば気のせいですましてしまうようなそれを赤ん坊たちは敏感に感じとり、警戒していたのだ。
中身が少女ではなく親父だというのは関係ないはずだ、たぶん……。
「ただいま。あれ? 皆揃って何をやって……」
帰ってきたクリスの目がスノウにとまる。見ている方が楽しく思えるほどあからさまにその体が硬直した。
「あああ赤ちゃん!? いつの間に生んだんだトラン!?」
……よほど混乱しているらしい。悪の幹部が赤ん坊を連れていれば、生んだではなく、さらったと連想するのが普通だろうに。……それともトランはそんな事はしないとクリスが信じ込んでいるだけか。
「……さらったではなく、わたしが生んだ子ですか」「トランさんは男性だから、赤ちゃんは産めないと思います……」
「あ? ……ああ、そうか! 目の色が同じだったからトランの血縁だと思って。でもトランが生んだって……。何を混乱しているんだろう、私……」
「……まあ、バカは放っておいて。はい、スノウ。あーんして」
「あ〜」
小さな口でまぐまぐとリンゴを食べるスノウの頭を撫で、クリスが問う。
「この子は結局どこの子なんだ?」
「はあ、それがですね」
トランはノエルにした説明と同じようにクリス達に事情を話した。
「迷子なのか。神殿には届けたのか?」
「……わたしにそれをききますか」
ダイナストカバル幹部が神殿に赴くはずがない。
「そっち方面はクリスに任せますよ。こっちも独自の情報網を駆使して調べます」
「ダイナストカバルの情報網?」
「ええ。近所の奥様ネットワーク」
「……」
ダイナストカバルは地域密着型組織である。地域住民の皆様の手助けを続ける彼等には、いろいろな人間関係が生まれ、そこから噂話をはじめとする膨大な情報が流れてきている。
地域住民からの情報は、今回のような件にはうってつけと言えるだろう。
「まあ、とりあえず神殿にその子の顔を見せに行くか」
クリスがスノウを抱き上げる。そのとたんスノウがいやいやするようにぐずりだした。
「う〜。やぃや〜」
トランに手を伸ばしてワキワキと暴れだす。
「……そんなにトランがいいのか」
クリスがちょっぴり傷ついた様子でスノウをトランに手渡す。
「スノウ? クリスは怖くありませんよ。クリス、撫でてあげてください」
そうっと白雪色の髪を撫でると、スノウはくすぐったそうに笑ってクリスの手を捕まえた。
「あう〜」
愛らしい仕草に思わず頬がゆるむ。
「おいでスノウ」
抱き上げても今度は泣かなかった。機嫌よさそうに笑っている。
「さ、行くか」
扉に向かって一歩踏み出した、その瞬間……。
「えう……。やーいやー!」
またジタバタと暴れだした。
「……」
クリスが無表情でトランに向き直る。
「トラン! 我が儘言わずにお前も神殿に来い。スノウはお前から離れたくないそうだ!」
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Scribble <2009,08,15>