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I miss you…


 目の前にいるのは神話の時代より語り伝えられてきた神秘の存在。その前でノエルは不安げに瞳をゆらしながらもう一度尋ねた。
「本当に、どんな願い事でも叶うんですか?」
『えぇ、一つだけ願い事を叶えましょう』
 ノエルが振り返ると仲間たちは優しい笑顔で応えてくれた。
 「ノエルの願いを叶えるといい。お前はよく頑張った、一度くらいわがままを通したっていいさ」エイプリルが後押ししてくれる。
「神官として願うべきは世界の平和……。でも私の、クリス=ファーディナントの本当の願いは……。ノエルさん、あなたと同じです」
 クリスが決心をつけさせてくれる。
 ノエルは仲間たちに勇気つけられて、口を開いた。
「トランさんを、あたし達のトランさんを生き返らせてください!」



 優しくそよぐ風をうけ、ノエルは微笑んだ。
「トランさん、待っていてくださいね? あたし、必ずあなたを見つけるから」

『死者の復活、ですか』
「ダメなんですか?」
『そのままの彼を蘇らせるのは出来ません』
「何でも叶えてくれるって言ったじゃないですか!?」
『彼の体は既に滅びている。ですから彼の魂を他の、魂を失った肉体に宿らせるのなら』
「どう、なるんですか?」
『姿形はあなたの知らないものとなる。最悪の場合は記憶も違え、彼の魂を宿した別人となるかもしれない』
「そ、それでも……」
『そして……』
「まだあるんですか」
『何処の誰に宿るかまではあなたに伝える事はできない。だからあなたは彼に気付かないかもしれない……いいえ、一生彼に出会う事すらも出来ないかもしれません』
「……それでも、お願いします。生きて、生きてさえいるなら、いつかきっと会えるから」


「どんなに辛いことがあったって、あたしは諦めません。あなたを、諦めたりしません」
 決意を新たに固め、空を見上げる。彼の元に続いているだろう青い空を。
「一人で行くつもりか」
「エイプリルさん……。クリスさんも」
 一人で抜け出してきたはずなのに、振り向くとエイプリルとクリスが旅の荷物を背負い立っていた。
「水くさいですよ、声もかけてくれないだなんて」
「あの、一人で行こうと思ったんです。トランさんに会いたいっていうのはあたしの願い、あたしのわがままだから。二人に、迷惑かけちゃいけないって……」
 そう言って目を伏せるノエルにエイプリルは少々キツい口調で言う。
「俺達は仲間だろう!? くだらん事を考えるな!」
 そのあとをクリスが優しい口調で継ぐ。
「それに、私達も彼に会いたい……」
「エイプリルさん、クリスさん……」
 ノエルが涙をたたえた瞳で二人を見つめる。
 そんな彼女にエイプリルが笑みを浮かべて尋ねる。
「ノエル、俺達のギルドの名はなんだ?」
「……フォア・ローゼス」
「そう、4つの薔薇だ。欠けたままでいいのか?」
「いいえ、いいえ!」
「4人揃ってこそのフォア・ローゼス。そうでしょう、ノエルさん?」
「はい!」
 力強く答える。そしてクルリと彼等に背を向けると、ノエルは青空に向かって叫んだ。
「トランさーん、待っていてくださいねー! あたし達、絶対にあなたを迎えに行きますから! あたし、やっぱりあなたがいないとダメなんですー!」
 それにならいクリスも声を張り上げる。
「首を洗って待っていろ、トラン! 私はお前に言いたい事がいっぱいあるんだ!」
 エイプリルも静かに、だがはっきりと宣言する。
「トラン、俺達は必ずお前を探し出す。その時は……もう離れるな!」
 3人の顔にあてなき旅への不安はなかった。彼等にあるのは堅い意志、そして無限に広がる希望。
「さあ、行きましょう!」
「まずはどこに?」
「…………お墓に。大首領さんの石像、トランさんに届けてあげなきゃ」



「……どうした?」
「いえ、今呼ばれた気がしたものですから」
「そうか。それよりほんとうにいくのか。しゅみわるいやつだな」
「けじめ、みたいなものです。いや、決別かな?」
「なにいってるかわかんないぞ」
「あなたの子のつまらない感傷です。気にしないでください」
「いまは"おや"じゃないぞ」
「まあ、血縁でいえばそうなんですが。感情的にはあなたはわたしの親なんですよ。……我ながらややこしい事になったもんです」
「あたしもいくからな」
「はい、お願いします」
「いついくんだ」
「明日にでも」
「はやいな」
「こういう事は早い方がいい。それに……落ち着かないんですよ、アレがないと」




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Scribble <2007,03,31>