New start

With you…


 無事ユージンのもとにたどり着き、挨拶もすました。
 このまま旅立つというノエル達を見送るとアルテアが言うので、村の入り口まで仲間たちと共に歩く。
 このまま彼らと共に行きたい、いや自分はアルテアと共にいるのだと決めたではないか……。
 そんなトランの葛藤を知ってか知らないでか……
「今だけ、ですから……」
 ノエルが彼の手をしっかり握り、寄り添って歩く。
 ……別れを惜しみ、彼の温もりを自分に刻み込もうとするかのように。
 その背後で……
「……ラブラブだな」
「ノエルの方が一方的にな」
「っていうかトランも意地はらなきゃいいのに」
 後ろから見る二人は本当に仲が良さそうで、別れを決意した二人には見えない。
 憮然とした態度で二人をみるクリスにアルテアが声をかける。
「なんだクリス、やちもちか?」
「違う!」
「仕方ないな。かわりに俺が手をつないでやろう」
「……いらん!」
 クリスの拒絶を気にしたでもなく、エイプリルがアルテアを見て尋ねる。
「そういえばアルテア、錫杖はどうした?」
 言われてみれば彼女の手にはいつもの錫杖がない。そのかわりに抱えられているのは彼女にしては大きな荷物。
「みおくりにひつようないからおいてきた」
「まあ、そうだな。っていうか、その手に持ってるのはトラ」
「しーっ! あいつ、めにはいってないみたいだからな、だまってろ」
 そう言ってアルテアは子供らしい笑顔を二人に向けた。
 なんだか、ビックリを仕掛けようとしているような、楽しそうな笑顔だ。
 前方は暗く、後方は和やかに歩は進む。……そう広い村ではない。すぐに村の門までたどり着いてしまった。
 まずクリスとエイプリルが門の外に出た。その後をノエルがためらいがちに追う。
 振り返り、今にも泣き出しそうな震える声で言う。
「ここで、お別れ、ですね……」
「はい……。ノエル……クリス、エイプリル……三人とも、お元気で……」
 それを受けるトランの声も重く沈んでいる。
 だが、そんなトランをバカにするかのような明るい声が響く。
「なにいってるんだ。おまえはノエルたちといっしょにいくんだ」
 そうやって荷物を押し付けられ、門の外へと押し出された。
「アルテア!? ……これ、わたしの荷物!? いつの間に?」
「さいしょからもってたぞ。おまえがノエルしかめにはいってなかっただけだ」
「え? あ、いや……そんな事は……」
 慌てるトランを尻目にノエルが期待をこめて尋ねた。
「あ、あの……いいんですか?」
 アルテアはトランを彼女の前に押し出し、笑顔で言った。
「ああ、かしてやるぞ、ノエル。でもちゃんとかえすんだぞ」
「ありがとうございます! ……えっと、どれ位、借りててもいいんですか?」
「ちょっとだけだ」
「ちょっと……ですか」
 ノエルが寂しげに聞き返すが、彼女は笑顔で言った。
「うん。100ねんだけだ」
「100年!? あの、いいんですか? アルテアさんは寂しくならないんですか?」
 胸をはり、気丈な態度で彼女は続けた。
「あたしたちエルダナーンはながいきなんだ! 100ねんくらいへっちゃらだ! それにあたしたちはきょうだいだからな! どんなにはなれたってあたしたちはかぞくなんだ!」
 そしてアルテアはトランと目を合わせ、優しくいたわるような笑みをうかべた。
「……だからトラン、あたしのことはしんぱいするな。ノエルといっしょにいって……100ねんくらいしたら、こどもでもつれてかえってこい」
「アルテア……。……って誰との子供ですか!?」
「はっきり言ってほしいのか。ノエル、こいつはな、ず〜っと『ノエルが泣いていないでしょうか』とか『ノエルは大丈夫でしょうか』とか、ノエルノエルばっかり言って……」
「わー! わー、わーー!!」
 トランが真っ赤になって騒ぐが時はすでに遅く、ノエルの耳に入ってしまった。
「え? あああぇぅぁぅ……」
「ノエル、落ち着いてー!?」
「で、トランはどうしたいんだ? 俺達と行きたいのか?」
 赤くなった顔を一瞬で引っ込めて、アルテアを見ると……
「いいかげん、おやばなれしろ」
「……都合のいい時だけ、親になって……」
 微苦笑をうかべて呟く。
 彼女の本心が、自分を送り出してやろうという思いやりがありありとわかった。
 彼女がこうまでしてくれているのだ。自分も応え……、いや自分に素直にならなければ。
 トランが心の底で望むこと、共にあることを望む人……、それは……
「わたしも、一緒に行きたい……。わたしを連れていってもらえますか……」
 アルテアの方を向いたまま……、彼等に背を向け俯いたまま、搾り出すように声を出す。
 そんな彼の背をクリスが笑顔で叩き、答える。
「当たり前だろう? 私達は仲間じゃないか」
 トランは振り返り、仲間達の顔を見た。
 彼等は皆、笑顔で……自分を暖かく受け止めてくれる。
 トランはそれに笑顔で応え、そしてノエルを真正面にとらえると、深々と頭を下げて言った。
「ふつつか者ですが……よろしくお願いします」
「嫁にくる気か、お前は!?」
 クリスがおもわずツッコんだ。
「へ? あ、あああ〜」
 トランが、そしてなぜかノエルも顔を赤くする。
 それを見て、エイプリルが堪え切れずに吹き出した。それにつられクリスも笑い出す。そしてトランも、−笑いのネタが自分だとわかってはいるが−仲間の笑顔に微笑んだ。
 そしてアルテアに向き直ると笑顔で告げる。
「では、アルテア。いってきます」
「うん、いってこい!」
 ノエルが一つ頷いて、笑顔で宣言する。
「さあ、皆さん行きましょう!」
 そう、旅はノエルと仲間達の笑顔と共に!





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Scribble <2007,04,22>