Sweet sleep

03


 しっかりと目を閉じ、しばらくしてから目を開ける。また目を閉じて、また目を開ける。そんなことを何度も繰り返す。
 ……眠れない、眠れない。
 いつもなら目を閉じればすぐに眠りに落ちていけるはずなのに眠れない。
 就寝時間がいつもと違うせいだろうか?
 いや、それはない。そこは臨機応変に設定されているはず……。
「どうしたんですか、レントさん?」
「……継承者殿、お眠りになってください。お体に障ります」
「レントさんが眠ったら寝ます」
「いえ、わたしはどうも眠れないようですので、お気になさらずに」
 レントがゆっくりと身を起こす。その腕をぎゅっと捕まえたまま、ノエルも起きだした。
「眠れないのか、レント」
「いつも変な時間に寝てるからだ」
 なぜかクリスとエイプリルまで起きてきた。
「なぜ、キミたちまで起きている」
「理由なんてないさ、なあエイプリル?」
「ああ。たまたま俺たちも眠れなかっただけだ」
 暗闇のせいで表情が確かめられないが、明らかにうそ臭い。
「継承者殿、腕を放してください。わたしはやはり見張りをしておきますので」
「ダメです」
「しかし眠れないのですから、見張りをしておいたほうが有意義……」
「だからダメです。エイプリルさん、眠るのにいい方法ありませんか?」
 エイプリルが腕を組み、悩む。
「俺は永眠させるなら得意なんだがな。……ああ、たしか昔の知り合いには寝酒を飲んでるやつがいたな」
「お酒ですか。でもありませんよ」
「……だな。役に立てんですまん」
 ノエルが続いてクリスを見る。
「そうですね。疲労していれば眠気が襲ってくるものですから、ちょっと走りこみでもしてくれ……」
「却下。睡眠のために疲労するなどバカらしい」
 言ってる途中でレントに否定されてしまった。
「……ノエルは何か知らないのか?」
 エイプリルの言葉にノエルは少し小首を傾げて、おずおずと答えた。
「いい方法は知らないんですけど……、昔、お義父様とお義母様にしてもらったおまじないなら」
「おまじない、か。まあ、こういうのは気の持ちようもあるし、やってみたらどうだ」
「そ、そうですね! じゃあレントさん、横になってください」
「……はい」
 横になり目を閉じたレントの肩口をそっと抱いて、ノエルが彼にささやいた。
「おやすみなさい、レントさん。夢が今日という日より美しいものでありますように、明日という日がそれよりも楽しいものでありますように……」
 かすめるような優しいキスを彼のまぶたに落とし、ぎゅっと抱きしめた。
「(……わあ!)」
「(子供にやる分には問題ないが……)」
 ノエルが我に戻って恥ずかしがるといけないので、声は殺したが思わずツッコんでしまいたくなった。
 それはダメだろう! と……。
「レントさん、おやすみなさい」
「………すう」
「「(寝たーっ!?)」」
 ……本気でレントは眠ってしまったようだ。クリスとエイプリルが確かめに来るが彼は目を開けたりしない。穏やかなあどけない表情で眠っている。
「いや、いやいやいや……。効くもんだな、おまじない」
「私、レントの寝顔ってはじめて見た」
 二人の話し声(無論小声ではあるが)にも反応しない。完全に寝入っているようだ。
「あの、二人とも何をしに?」
「いや、なにもないよ」
「そうそう、俺たちも寝るからノエルも寝ろ」
 そういって二人は各自のベッドに戻ってしまった。ノエルもレントがちゃんと眠ってくれたのに、自分が寝不足になるようなことになってはいけないと思い、レントの隣にもぐりこんだ。
「おやすみなさ〜い」
 そして部屋から彼らの寝息以外の音が消え去っていった……。



その日、レントは初めて夢というものを見た
内容を明確に思い描くことはできないが
明るく、美しく、なぜだか胸がくすぐったくなった
しかしそれは不快ではなくて……
暖かい何かで自分が満たされていく

そして彼は初めて知ったのだ
幸福という言葉の本当の意味を





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Scribble <2007,10,13>