家事にまつわる五つのお題

Cooking 〜クリスエイプリル〜


 野営時の食事は基本的にクリスとトランが作る。
 いや、正確にいうと一応4人で交代して作るようになってはいるのだが、ノエルはまだ料理が苦手なために料理上手なトランが付き、エイプリルにはとある事情でクリスが付き添って作る。
 その事情とは……

 クリスは今、固まっていた。
 匙を半分程あげた状態で滑稽なほど目を見開き固まっていた。
「(見てる! 絶対こっち見てる!!)」
 その視線の先、持ち上げた匙の上には爬虫類的な何かの頭が乗っていた。
 これは自分に対する嫌がらせかとトランの方を見てみると、彼も匙の上をじ〜っと見ていた。椀に隠れて見えないがきっとアレも……
  ポチャン
 あ、返した。なんだか冷や汗もかいてる。
 ノエルは……普通に食べている。彼女のところには入っていないようだ。作った本人であるエイプリルはというと、彼女も普通に食べていた。……何かの足に見えるものでも、尻尾に見えるものでも、平然とかみ砕いていた。
 なぜアレがノエルの目に留まらないのだろう、不思議で仕方ない。もっともそれは幸いな事だが……。
 とにかくクリスはその何かを椀に返した。そして恐る恐る他の具を掬い取る。……どうやらアレ一つだけらしい。
 材料はアレだが味は、悔しい事に自分の作るものより旨い。それにもう食べてしまったのだから、今更残してもしかたない。
 そう自分を言い聞かせながらクリスは食事を続けた。


 食事を終え、ノエルがトランと共に食器を洗いに行っている内に、クリスはエイプリルを問い質した。
「エイプリル! さっきの食事に入っていたアレはなんだ!?」
「今日は……トカゲだな。まあ、ちゃんと食用になるやつだし、心配するな」
 エイプリルはしれっ……と答えるがクリスの熱は収まらない。
「そういう問題じゃないだろう!? ……鍋の具と目があったときは、本気で悲鳴をあげてやろうかと思ったんだぞ!?」
「案外根性がないな。それに今までも入ってたんだぞ?」
「そ、そうだったのか!? っていうかちゃんと食料があるのになんでそんなもの使うんだよ!?」
「……旨いだろう?」
「う、うん……」
 極上の美少女にとろけるような笑顔で言われては、いかな怒りでも引っ込むものだ。事実クリスの口調も彼の感情にならい、おとなしくなる。
「別に腹をこわすわけじゃない、食料の節約にもなる、しかも旨い。いいことばかりじゃないか」
「……つまりこれからも使い続けると?」
「何の問題もないだろ?」
「せめて原形をわからなくしてくれないか?」
「めんどくさい」
「なら! それなら私がする! 私が料理を手伝う!」
「そうか。じゃぁ、一緒に作るか……」

 ……などということがあったのである。
 その後、エイプリルの当番のときにも料理をするようになったのだが……
「クリス、コレは……」
「ああ、私がやる。それでコッチは……」
「それでいい。こっちに寄越せ」
「ああ、任せた」
「……味見」
「うん、旨い」
 …………ノエルに"最近エイプリルさんと仲良しですね"などと言われるようになってしまった。
 でも、それが不思議と……イヤなことではない、……いや、むしろ嬉しいと感じているのは……。
「まさか、な……」
 頭に浮かんだその答を振り払う。
 ……が、クリスの彼女を見つめる目は、以前とは違う優しい色をたたえていた。




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