家事にまつわる五つのお題
Cleaning 〜エイプリルノエル〜
「もう、エイプリルさんってば! こんなに散らかして」
気だるげな午後、エイプリルがまどろんでいると、ノエルがこんなことを言い出した。
「なんでたった三日でこんなに散らかるんですか!?」
「べつにいいだろ、ここは宿屋で俺達の家じゃない」
「お借りしている限り、あたしたちのお家です!」
「はいはい……」
ノエルに促され、しぶしぶと掃除を始める。
エイプリルがだらだらと片付けるにたいして、ノエルはテキパキと効率よく片付けていく。
なんだか、意外だ……。
「ほう……、手際がいいじゃないか。掃除、得意なのか?」
「得意、というか……好きなんです、こうやって片付けて部屋をキレイにするの」
「掃除好きか……。ノエルはいい嫁さんになれるな」
「え? ……あ、や、あたしダメですよ! お料理とか全然出来ないし!」
なんだか必要以上に慌てている。……少し、顔も赤いような?
「相手はどっちで想像した……クリスか? それともトランか?」
「もう〜、エイプリルさんやめてくださいよ〜!」
ノエルが真っ赤になってバシバシと自分を叩いてくる。
自業自得とはいえ、ウォーリアの筋力で叩かれるのは、かなり痛い。
「わかった、わかったから叩くのはやめてくれ」
「からかわないでくださいね?」
ノエルが涙目で訴える。
それを微笑ましく見つめながらエイプリルは言った。
「だがいい嫁さんになれると思ったのは本心だぞ? 料理好きの女はいるが掃除好きの女はあまりいないからな」
「そういうの関係あるものでしょうか」
「それなりにな」
窓を開け放ちながら微笑を一つ返してやる。
そこに一陣の風が舞い込んだ。その風はエイプリルの髪を大きくなびかせながら、清々しい空気を部屋に運んできてくれた。
「やれやれ、空気がよくなるのはいいんだが、この風は厄介だな。……ノエル、どうした?」
なぜかノエルがぽ〜っとした顔で自分を見つめている。
「いえ、なにも……」
「そうか、ならいいんだ。さてと、この部屋の掃除はもういいな? 今度は男どもの部屋でも掃除してやったらどうだ」
「そ、そうですね! 行ってきます!!」
彼女は慌てて返事をすると、パタパタと部屋を出て行った。
……あんなに慌ててコケなければいいが……。
しばらくしてからノエルがすごすごと帰ってきた。
「……ため息がでるくらいキレイに片付いてました」
「そうか、マメな男どもだな……」
そういえばマメに洗濯したり、片付けをしたり、料理をしたり……、自分よりよっぽど家事が上手な気がする。
エイプリルがぽそりとつぶやく。
「お前たちといれば、楽できそうだな……」
「何か言いましたか?」
「いや……。……ずっと一緒にいれたらいいな」
ノエルの問いをごまかすために言ったはずのその言葉は、その意図に反してやわらかな微笑みをともなって発せられた。
……そう、それはまさしく彼女の本心だったのだから。
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