[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

家事にまつわる五つのお題

Cleaning  ~エイプリルノエル~


「もう、エイプリルさんってば! こんなに散らかして」
 気だるげな午後、エイプリルがまどろんでいると、ノエルがこんなことを言い出した。
「なんでたった三日でこんなに散らかるんですか!?」
「べつにいいだろ、ここは宿屋で俺達の家じゃない」
「お借りしている限り、あたしたちのお家です!」
「はいはい……」
 ノエルに促され、しぶしぶと掃除を始める。
 エイプリルがだらだらと片付けるにたいして、ノエルはテキパキと効率よく片付けていく。
 なんだか、意外だ……。
「ほう……、手際がいいじゃないか。掃除、得意なのか?」
「得意、というか……好きなんです、こうやって片付けて部屋をキレイにするの」
「掃除好きか……。ノエルはいい嫁さんになれるな」
「え? ……あ、や、あたしダメですよ! お料理とか全然出来ないし!」
 なんだか必要以上に慌てている。……少し、顔も赤いような? 
「相手はどっちで想像した……クリスか? それともトランか?」
「もう~、エイプリルさんやめてくださいよ~!」
 ノエルが真っ赤になってバシバシと自分を叩いてくる。
 自業自得とはいえ、ウォーリアの筋力で叩かれるのは、かなり痛い。
「わかった、わかったから叩くのはやめてくれ」
「からかわないでくださいね?」
 ノエルが涙目で訴える。
 それを微笑ましく見つめながらエイプリルは言った。
「だがいい嫁さんになれると思ったのは本心だぞ? 料理好きの女はいるが掃除好きの女はあまりいないからな」
「そういうの関係あるものでしょうか」
「それなりにな」
 窓を開け放ちながら微笑を一つ返してやる。
 そこに一陣の風が舞い込んだ。その風はエイプリルの髪を大きくなびかせながら、清々しい空気を部屋に運んできてくれた。
「やれやれ、空気がよくなるのはいいんだが、この風は厄介だな。……ノエル、どうした?」
 なぜかノエルがぽ~っとした顔で自分を見つめている。
「いえ、なにも……」
「そうか、ならいいんだ。さてと、この部屋の掃除はもういいな? 今度は男どもの部屋でも掃除してやったらどうだ」
「そ、そうですね! 行ってきます!!」
 彼女は慌てて返事をすると、パタパタと部屋を出て行った。
 ……あんなに慌ててコケなければいいが……。
 しばらくしてからノエルがすごすごと帰ってきた。
「……ため息がでるくらいキレイに片付いてました」
「そうか、マメな男どもだな……」
 そういえばマメに洗濯したり、片付けをしたり、料理をしたり……、自分よりよっぽど家事が上手な気がする。
 エイプリルがぽそりとつぶやく。
「お前たちといれば、楽できそうだな……」
「何か言いましたか?」
「いや……。……ずっと一緒にいれたらいいな」
 ノエルの問いをごまかすために言ったはずのその言葉は、その意図に反してやわらかな微笑みをともなって発せられた。
 ……そう、それはまさしく彼女の本心だったのだから。




[ ←BACK || ▲MENU || NEXT→ ]
Scribble <**,**,**>