Nursing
トランSide 02
「クリスー、起きてますかー」
そう、声をかけて部屋に入ったが彼は眠っていた。
……まだ回復しきったわけではないらしい。
わたしは水さしを机に置き、かわりにりんごの皿を持って部屋を出た。
皿の上のりんごは、一つだけかじってあるものの数はまったく減ってない。
……どうやら固形物を食べるのは無理らしい。
「クリスさんは?」
振り返るとノエルが不安そうな顔で立っていた。わたしは彼女を安心させようと、微笑みを浮かべて話し掛けた。
「今は眠っています。……大丈夫ですよ。一度は目覚めたんですから、あとは元気になっていくだけです」
「はい……」
……表情は沈んだままだ。
もしかしたらひどく弱気な微笑みだったのかもしれない。
「そうだ、ノエル。りんご食べますか? あいにくクリスの残したやつですが」
「え? でもいいんですか?」
「いいんですよ。これ以上置いとくと変色しちゃいますから。ほら、この手がついていないのをどうぞ」
ノエルがおずおずとりんごを手にとり、一口かじる。
わたしはそれを横目に見ながらクリスが食べ残したりんごを口にほおりこんだ。
「トランさん、それもクリスさんが残したんですよね?」
口の中がいっぱいだったので、ただ頷いた。
「……食べかけ、ですよ?」
「でも捨てるのはもったいないし……。だからといってあなたに食べかけのりんごをあげるわけにはいかないじゃないですか」
「え? えー、でも……それって間接……」
「……?」
何故、彼女は顔を赤くしているのだろう?
ノエルはわたしをじ〜っと見つめた後、ぽつりと呟いた。
「もう、いいです……」
……よくわからない。
……そうだ、それよりも。
「ノエル、甘い物は好きですか?」
「好きですけど……」
「時間もあることだし、厨房を借りて、一緒に何か作りましょう」
「あ、あたしお菓子とか、作ったことないですよ」
「大丈夫、教えてあげますから」
ノエルの手をとり、歩き出す。
しきりに後ろを振り返り、クリスを気にしているらしい彼女に言った。
「……後でクリスにも差し入れてあげましょうね」「……はい!」
……さて、何を作ろうか。
彼のために消化によさそうな物を考えなければ……。
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Scribble <2006,11,23>