Pass each other
3
ふわりと甘く香る焼き菓子。キラキラと輝く小さなフルーツタルト。あらかじめ温められたカップには香り高いお茶。
「いい香り……」
「美味しそうですね」
カップに注がれた琥珀色のお茶と並べられた菓子から立ち上る香気が二人の鼻孔をくすぐり、それらの素晴らしさを訴えかけてくる。
「……」
……それだというのに、何故かトランの表情は晴れない。
「トランさん、どうしたんですか?」
「……え?」
「暗い顔してます」
「いえ、その……クリスのことで」
「喧嘩しちゃったんですか!?」
「そういうわけじゃないんですが……」
ちなみに彼女には自分とクリスのことを伝えてある。
というより気づかれた。さすがは女の子。恋愛事情には聡い。
ちなみにノエルは男同士で付き合うことに、何の批難もせず、驚きもしなかった。
ノエルいわく、仲が悪いより仲がいいほうがいいし、上流階級の中ではたまにあるそうだ。
彼女の理解の良さを喜ぶべきか、上流階級の腐敗をなげくべきか……悩む所である。
いくらノエルが理解してくれているとはいえ、どうすればヤれるかなんていう、直球ど真中なことをきくわけにはいかない。
「クリスとの仲は順調ですよ。でもなんと言うか……物足りない?」
「そうなんですか? あたしは好きな人といるだけで幸せなんですけどね〜」
にこにこと笑いながらノエルが自分を見上げている。
わたし? と指をさして尋ねると彼女はそのままの笑顔でこくこくと頷いた。
「あたしはトランさんのことが好きですよ? だからこうしているだけで幸せです」
ため息を一つ。
「同じようにクリスとエイプリルも好きなんでしょう?」
ノエルが照れながら頷く。
彼女の言う"好き"は親愛の"好き"だ。同じ愛の一種とはいえ、恋とは大幅に違う。
……でもまあ。
「わたしもノエルが好きですよ」
愛しているのはクリスだが。
「トラン?」
振り返るとクリスが不思議そうな表情で立っていた。……もしや聞かれてしまったのだろうか。
「何をやってるんだクリス。早く座れ」
「あ? ああ、そうだな」
釈然としない感じのクリスに一言だけ声をかける。……二股かけてるなんて疑われたくはないので。
「クリス、意味が違いますからね?」
……彼が理解してくれることを祈る。
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Scribble <2009,04,26>