Pass each other



 なんだか最近、クリスからいい匂いがする。
 普通に過ごしている分には何も気にならないのだが、二人きりになった時に、ふんわりと甘い匂いが感じられて、なんというか、こう……頭がくらくらする。
 靴を脱いでベッドに座って……手を握りあったり、抱きしめあったり、スキンシップもこの頃増えたような……。
「トラン……」
 そっと唇を重ねるだけのキスがくすぐったい。もっと深く、ディープなキスもしてほしいのに、彼はしてこようとしない。
 やっぱりここは一発、自分から舌でも入れるべきだろうか。
 ああ、でも。拒まれたら、嫌われたらどうしようかと、不安がつきまとう。
「……クリス」
 やっぱり出来なくて、ついばむようなキスを彼にかえす。
「トラン、好きだ」
 まわされた腕に力が込められた。しかしその手がどこかにまわることはない。
 自分を、抱こうとしない。
 恋人といえばキスしたりエッチしたりするものじゃないのか。エッチはもちろんまだだが、キスだって恋人同士のものとは言いがたい。
 確か支部で教わった知識によると、恋人とは四六時中イチャついたりエッチしたりしたくなるとあったのに。
 彼はどうして手を出してこないのだろう。
 しかもクリスは健康な青少年。ヤりたい盛りじゃないのか!?
 いつ押し倒されてもいいように、毎晩頭のてっぺんから足の先、口では言えないようなところまで、ピカピカに洗っているのに。
「トラン……」
 肩口に押し付けられたクリスの頭を撫でる。さらさらとした髪の感触が気持ちがいい。
 そっと顔を覗きこんでみると、彼はうっとりと目を閉じて気持ち良さそうだ。……どう見ても、これからさあヤりましょうと言える雰囲気ではない。
「クリス、眠いですか?」
「ん……。眠くない」
 そのわりには目を開けようとしない。幸せそうに自分にすりよってくる。
「……てやっ」
「……ひゃ」
 勢いをつけてクリスをベッドに押し倒す。
 きょとんとしたクリスに笑いかけ抱き締める。
「ト、トラン?」
 大丈夫。眠い人間に無理強いなんてしないから。
 パチパチと始終まばたきする彼の目元に軽いキスを一つ二つ。
 驚いて目を閉じた彼の頬に甘いキスを一つ。
 彼が安心出来るように包み込んで、こう告げる。
「おやすみなさい、クリス」




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Scribble <2009,05,09>