History not chosen

Rest period U


 三人が部屋を出ていき、扉が閉まったのを確認してから、トランは口を開いた。
「大首領……」
『うまいものだな』
「長い時間、彼らと過ごしてますから。……まあ、エイプリルは察してくれたのかもしれませんが」
 たぶん、そうなのだろう。ノエルが手伝うと追いかけなければ、彼女は退室を促してくれたはずだ。
「お話があるのでは?」
 わざわざ音声出力のみを切って、こちらの様子をうかがっていたのだ。彼らがいなくなるのを待っていたのだろう。そしてそれはこれからする話を彼らに聞かせたくないからだと推測できる。
『お前の修理についてだ』
「やはり、無理ですか……」
『いや、修理自体は可能だ。ただ多少の危険が伴う』
 アルテアが不安そうにトランの服を引っ張る。彼女を安心させるために微笑みかけてから、言葉を返す。
「承知いたしました」
『それと、だ。修理のさいに記憶回路のバックアップをとり……お前の"弟"を造る』
 トランの瞳がゆらいだ。
「……弟ですか」
 ダイナストカバルにおいて、同じ戦術データ、同コンセプトの元に造られた人造人間は"兄弟"とみなされる。
 トランが戸惑ったのは、なんのことはない。生まれてくる弟は自分より優秀なのが確定されているからだ。
 人造人間という出自である以上、あとから生まれるものほど、改良が加えられ、さらに新技術を積み込めるため優秀なのだ。
 自分の力がいたらないから弟が造られるのだと、そう思ってしまっても、しかたがないことだろう。……無論、大首領にはそんなつもりはないのだが。
『腕の修理が無事済んだとしても、生体火気の調整が別に必要となる。その間、彼女らをサポートさせるためにお前の弟を造るのだ』
「ああ、なるほど。理解いたしました」
 フォア・ローゼスの連携は自分を含めた四人ですでに完成されている。それを補うには自分と同タイプの魔術師、しかも彼らの戦い方を記録した自分の弟が望ましいだろう。
「しかし、教育期間なしに実戦投入するのですか」
『それは……しかたあるまい。時間がないのだ』
「時間がない、とは?」
『神殿が、不穏な動きを見せておる』
 ダイナストカバルの情報網はなかなか広い。神殿の情報もわずかながら流れてくる。
『最悪の場合は……。いや、今は言うまい。わかりしだい連絡しよう』
「お願いいたします」
『アルテア。トランを頼んだぞ。トランが無理をせぬように見張っておいてくれ』
「おー。わかったぞ、大首領!」
『ユージン』
「わかっている」
『うむ』
「それでは大首領。……世界を我が手に」
『世界を我が手に』
 携帯大首領の通信が途絶えるのと同時に、扉がノックされた。




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Scribble <2008,09,06>