History not chosen
To the stage of the fight! T
「余は、ダイナストカバル――大首領である」
突如として船上のマストの上に現れた男は、悠然とマントをなびかせながら、そう名乗った。
「あ、あれがダイナストカバル大首領……。……って作戦を実行中って本人が動いてたのかよ!?」
「大首領自ら、お出になられるとは……」
思わずツッコミをいれるクリスと感動しているレント。……どちらも状況を忘れているのは同じだが、反応はまったく違う。
「フォア・ローゼスの諸君よ。この船は貸し与えよう……。さあ、乗り込むのだ!」
ひらりと飛び降り、今まさに斬りかかろうとした騎士の剣を受け止める。
「でも、あたしたち飛空船の操縦なんて」
「問題ない」
ノエルの声に大首領が答えた、その次の瞬間……第三者の声が船上からふってきた。
……それはかつて別れた男の声、聞きたくてしかたがなかった大切な仲間の声!
「早く乗り込んでください!」
声の聞こえた方を見てみれば、大きく腕をふるトランがそこにいた。
「トランさん!」
「「トラン!」」
「兄さん!」
彼は仲間たちの声に応えるように微笑むと、奥に消えた。
その背を追って、飛空船に乗り込むと、彼は操縦器を操りながら言った。
「離陸します。何かにつかまって!」
「はい!」
「……いえ、ノエル。わたし以外の何かにつかまってください。っていうかレントも、わたしにしがみつかないで!」
ノエルたちがマストなどにしがみつくのを確認してから、船を動かす。
船が盤木の上を滑り出す。
未だに繋がれたままだった綱を断ち切り、船が外壁を破壊して、外に出た。
「ノエル!」
激しく響く轟音の中、その声は届いた。
どこか優しさの感じられる大首領の声。まわりはこんな騒音につつまれているというのに、その声ははっきりと聞こえた。
「ノエル……」
優しく微笑みながら、語りかけているような甘い声。きっと彼は仮面の下で、その通りの表情を浮かべているのだろう。
「母さんを救い、必ず生きて帰ってこい……!」
「え……?」
ノイエを……母を"母さん"と呼んだ?
母と同年代らしき彼が、自分の兄弟であるはずはない。なら、ならば……彼は自分の…………。
「……お、お父さん?」
ピクリと大首領の背がはねた。チラリと視線をこちらに向け、微かにうなずく。
「お父さん、生きてたんですね!」
死地に向かい、恐怖で締め付けられる胸に、少しだけ光が射し込む。父がいるのならば……たとえ自分が死ぬことになっても、母は一人にはならなくてすむ。
ノエルは凄まじい速度で離れていく父の背中に、大きく叫んだ。
「お母さんは……必ず助けます!」
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Scribble <2008,12,20>