Happy cat life
02
「ただいま……」
「どうだ、クリス。何かわかったか?」
「……今、解呪専門の神官がいないらしくてさ……本だけ貸し出された」
バサバサと机に出された本達は、どれもずっしりと分厚い。しかも少なく見積もっても7、8冊はあるだろうか……。
「どこかに載ってるだろうってさ……」
言葉に覇気がない。かなりげんなりしているようだ。
「そうか、頑張れよ」
他人事のように話すエイプリルにクリスはむくれた声をあげた。
「なんで人ごとみたいに話すんだよ」
「俺にはわからん。ノエルもだ。唯一お前以外にわかりそうなのは……」
エイプリルがトランをみる。
「にゃ?」
「こ、小首を傾げて鳴くんじゃない! ちょっとキュンってしちゃったじゃないか!?」
「…………今のは俺もちょっとキた」
めずらしくエイプリルが頬を赤らめている。
彼女はトランの頭を乱暴に撫でると、ノエルのいる方向を指差した。
どうやら、あっちに行けということらしい。
トランはそれに素直に従い、ノエルの傍らに腰を降ろした。
ノエルがじぃ〜っと見つめてくる。
……なぜか目がキラキラと輝いているような。「トランさん……」
「にゃう?」
ノエルが手をわきわきさせて尋ねてくる。
「な、なでなでしてもいいですか」
……なんだか目がヤバイ。なんというか……、おもちゃを見つけた子どもの目をしている。
ここで断っても彼女の諦めがつくとは思えない。それならば、とっととなでなででもなんでもさせて、彼女に満足してもらった方が早い。
そう、トランは判断してノエルの手に頭をこすりつけた。
「いいんですか!? いいんですね!?」
そう言っている間にも、彼女の手は頭を撫でている。
「さ、さらさらふわふわ……!」
……どうやらものすごく楽しいらしい。感嘆の息をもらし、撫でてくる。
その手が毛並みにそって下に、体の方におりてくる。
本来ならばそんなことさせるべきではないのだが、今は猫の身だし気にすまい……。
それに…………
「にゃ〜」
なんだか気持ちがいいし……。
自分の喉の辺りがぐるぐるとなっているのがわかる。
そんな方法知らないはずなのに、これは猫の本能なのか……?
……それとも自分が本当に猫になりつつあるのか?
そんなことを考えながらトランは足を崩し、コロンっと体をひっくり返した。
「かわいい〜」
……ノエルはこの猫がトランだということをちゃんと覚えているのだろうか?
少し、忘れてるかもしれない。
その証拠にノエルはトランの尻尾を握ったり、肉球をぷにぷにしたり、腹を撫でたり……やりたい放題だ。
まあ、トランも嫌がっていないし、かまわない気もするが……。
「ぐるぐるぐる〜♪」
…………というか、むしろ喜んでる?
「クリス」
「なんだ?」
「アレ……」
エイプリルに視線で促され見てみると、そこには幸せそうにお腹を撫でてもらっているトランがいた。
「……まるっきり幸せな飼い猫とその主人になってるな」
「俺も思ったが……それよりもだ」
「なんだ、ほかに何かあるのか?」
「……正気にかえって、あいつの姿を想像すると……スゴイ格好だとおもわないか」
当然、人間の姿でということだろうから、ちょっと今のトランの格好を脳内変換してみる。
……幸せそうな顔で、手足を放り出して、腹を向け、今のトランは猫だから当然衣類は着けていな……!?
そこまで変換してから急いでその想像を振り払う。
「……正気にかえるな、想像もするな!」
……口に出すには躊躇われるところまで想像するところだった。
クリス達の会話が聞こえたのか、トランの耳がピクリと動いた。
そしてころっと姿勢をただすと……
「フー!」
……とふいた。なんだか機嫌が悪そうだ。
「……余計なこと言うな、かな?」
「本当に、まったくその通りだよ……」
クリスはげんなりと呟き、積み重ねた本に目をやった。
「にゃー」
いつの間にか近付いていたトランが不安そうに声をあげる。
クリスは彼の頭をそっと撫でて言った。
「大丈夫だ、必ず元に戻してやるから」
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Scribble <2007,06,16>