Happy cat life

04


「ただいま帰りました〜。……うわぁ」
 ノエルは両手にお土産をたくさんもったまま、思わず声をあげた。
 その視線の先ではクリスが焦点のあわぬ目を泳がせて本の海へとダイブしていた。
 ……元来、彼は肉体派で、調べ物は得意ではない。
「なにを腑抜けている。ほら、土産だ」
 そういってエイプリルが彼の前に置いたのは……
「なんだコレ。携帯大首領?」
 ……の形をした焼き菓子だった。一口噛ってみると中にはジャムが入っていた。
 ……なかなか旨い。
「カバル焼きだそうです。最近人気だそうで、すっごい行列でしたよ〜」
「……地道な活動してるんだな」
 そう言ってトランを見ると、彼は手元の菓子に視線をそそぎ、にゃーと鳴いた。
 ……どうやらカバル焼きが欲しいらしい。
 食べかけを口に放り込んでから、もう一つのカバル焼きを半分に割ってトランに与える。……こっちはカスタード入りだ。
 クリスの手から直接カバル焼きを噛りとろうとしたトランだったが、口にくわえた瞬間顔をしかめた。
 どうやら熱いらしい。
「私には食べ頃の熱さなんだけどな。やっぱり猫舌なのか」
 クリスはいらない紙にカバル焼きをのせ、トランの前に置いた。
 はふはふと吹き冷ましながら食べる様子ががかわいいと、ちょっぴり思ってしまう。
「……なあ、トラン」
「にゃう?」
「……クリームついてる。ってそうじゃなくて」
 クリスのセルフツッコミを耳の端に捕らえながら、顔についたクリームをおとす。
 あらかたきれいにしてから顔をあげると彼は神妙な顔で言った。
「もう……いいじゃないか猫のままでも。毎日ご飯も新鮮な水も用意してやる。ブラッシングもノミ取りだって毎日……」

 ガプ

 ……無言で噛み付かれた。
 ブーツの上から噛まれてるから痛くはないが。
「……クリームついた口で噛み付くなよ」
「あの……今のはクリスさんが悪いんじゃないかなぁ……って思うんですけど」
「それもそうですね。悪いトラン、冗談だ」
 ……いやそのわりには口調が真剣だった。
「さてと、小休止もできたし、気合いいれるか!」
 未調査の本はあと2冊ほど。この中にきっとあるはずだ。
 けれど、それでもなかったら……
「(私が、こいつを飼おう……)」
 ……などというクリスの不穏な考えをつゆしらず、トランは彼を見上げて"信じてる"とでもいうように一声鳴いた。




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Scribble <2007,07,01>