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04
とある喫茶店のある一席で、トランとエイプリルがメニューをにらんでいた。
「『姫君のドレス』というのがおいしいと聞きましたが、こんなに種類があるとは……」
「それにどれが何なんだか……」
二人のにらむメニューには大きな見出しで『姫君のドレス』と書かれており、その下に《水晶のドレス》、《紅玉のドレス》、《真珠のドレス》……などなど色々書かれている。
《水晶のドレス》の値段が他に比べて安い事を除けば、文面からは違いを見つけられない。
「きけばわかる、だろうが」
「きくのは野暮ですよね」
トランはパタンとメニューを閉じると店員を呼んだ。
「適当に頼んじゃいますよ? ……すみません、この《水晶のドレス》と《紅玉のドレス》を。飲み物は……ミルクティーを2つお願いします」
店員が注文を書きつけてその場から立ち去る。それを待ってエイプリルが口を開いた。
「コーヒーじゃないん、だな」
「あなたがお茶を飲もうって言ったんじゃないですか。……というかここは紅茶の方がおいしいらしいですよ」
……どこからそういう情報を仕入れてくるのだろう。
「さて、と。わたしに何か用事が……、ききたいことでもあるんじゃないですか?」
エイプリルが目を見開く。
「そう、だ」
「やっぱり。で、何なんです?」
ごくり、と唾を飲み込み、覚悟を決めてエイプリルはその言葉を吐き出した。
「トラン……ノエルの事を、どう思ってる?」
鳩が豆鉄砲をくらったような顔をするトラン。そのままパチパチとまばたきを繰り返す。
「どう……って。ノエルは薔薇の継承者……」
「そういうことじゃなく!」
「…………きましたよ」
テーブルの上に身を乗り出したまま、視線を横にずらすと店員が品物を持って来るところだった。急いで身を引き、テーブルにスペースをつくる。
トランは店員の持つ皿の上を確認すると、エイプリルを指し示した。
「《紅玉のドレス》を彼女に」
そうしてエイプリルの前に置かれた皿の上には赤い苺ソースのかけられたクレープ。上方をしぼるように置かれたクレープの作るひらひらがドレスのように見えなくもない。
「なるほど。だからドレスですか」
そういうトランの前に置かれたクレープはバターソースと砂糖がかかっている。砂糖がキラキラと光を反射する様が砕けた水晶のようにも見える。
「エイプリル、ミルクは多めでお砂糖は一つでしたよね」
「……ああ」
トランの微笑がことさら優しいものになる。その微笑のままクレープを食べるエイプリルに尋ねた。
「おいしいですか……ノエル?」
「はい!おいしいで……」
ぴたりとエイプリルが動きを止める。
ギギギ……っと変な音がしそうなほどぎこちなくエイプリルが顔をあげる。
「な、なんで?」
トランはにこにこと楽しげに笑いながらエイプリルの紅茶を指差した。
「エイプリルは紅茶には砂糖もミルクも入れませんよ」
「そ、そうでした……」
あまり自然にトランがきくものだから忘れていた。
「……というかおもいっきり中身がすけてました」
「う……」
せっかく頑張ったのに……。
「なぜあなたがエイプリルの姿をしてるのかも想像がつきますよ。……さっきの質問を面と向かってきくのが恥ずかしかったんでしょう?」
「……なんでわかるんですか」
トランはエイプリルに向かって最上級の微笑みをうかべると、こう言い切った。
「わかりますよ。……好きな人のことですから」
エイプリルの顔がぱあっ、と朱に染まる。
「す、好き? ……好きって!?」
「え? ……ああ! そういえばこうやって口に出すのは初めてですね。……すいません。わたしはクリスのようなクサイセリフははけないもので」
あわあわと慌てるエイプリルに紅茶をすすめながらクレープを一口。
「どうせならこのままデートでもしますか。……体を貸してくれた彼女にもお礼をしなければいけないでしょう?」
「そ、そうですね! お礼しなきゃ! ……でもデートは次の機会に〜」
どうせならデートはちゃんと自分の姿の時にしたい。
「ではそれはまた今度。食べたら買い物にいきましょうね」
「はい! ……でも何を買いましょう?」
トランは悪戯を思いついた子供のような、ふくみのある笑みをうかべてこたえた。
「せっかくここにエイプリルの体があるんですから。こういった時にしか買えないものを彼女に贈りましょう」
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Scribble <2007,12,01>