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06
「トランさんたちいませんね」
「そりゃあ適当に歩いて出会えるわけないだろ」
「適当じゃないですよ」
「そうなのか……っていうかさ、ノエルの口調で話すのはやめてくれ。外見はノエルでも中身はエイプリルだってわかってるから物凄い違和感が……」
「ならやめるか」
……あっさりしたものである。
ノエルは口調を元の自分のものに戻すと同時に歩き方も変えた。
「そ、それはそれで違和感が……」
なにやらクリスがぶつくさ言っているがそれは無視しておく。
二人で街中を歩くこと数分、店先で本を立ち読みするトランを見つけた。
……エイプリルの姿が見えないが、一緒にいないのだろうか。
ノエルはクリスの袖をひき、目をあわさせると、唇の前に人差し指をたてた。黙ってろ……ということだろう。
ノエルの表情が再びクールな少女のものから明るい少女のものに切り替わる。
「トランさーん、何してるんですかー」
その声で顔をあげたトランはぱちくりとまばたきをしてから、返事をした。
「おや、……ノエル。どうしたんですか」
「トランさんが帰って来ないから迎えにきたんですー」
「神殿の犬と一緒に?」
「はいー」
なごやかに会話してるっぽい二人のそばでクリスは笑いをおさえるのに必死だった。
ノエルになりきっているエイプリルを本物と思い込んでいるらしいトランがおかしくてたまらない。
「ところでエイプリルさんに会いませんでしたか? トランさんのところに行くって出かけたんですけど」
「……ああ。ノエルならこの店のなかですよ、エイプリル」
……は?
「そうですかー。店で何買ってるんですか」
「いや、待てよ! 今ノエルは店の中って言ったんだぞ」
トランとノエルが顔を見合わし口々に言う。
「トランさんは何もおかしな事言ってませんよ?」
「そうですよね」
ノエルが首をかしげる。
「それともクリスさん気付いてないんですか? ……トランが俺に気付いてるってことに」
「まったくこれだから神殿は……。観察力がないんだから」
クリスは目をまんまるに開き、戸惑いながら二人に尋ねた。
「いつから気付いてたんだ……?」
「トランが返事を返したときに」
つまりはじめからだ。
「わたしもそうですね」
トランの場合はエイプリルの中身はノエルだと気付いていたから、ノエルの中はエイプリルだとわかったのだが。
……それはともかく、二人とも気付いていながらも入れかわりによる茶番を続けていたということになる。つまりは……
「お前ら、私をからかってただろ」
その言葉にトランはにんまりと笑い、ノエルが口のはしをあげた。
「あなたが必死に笑いをこらえる様子は楽しかったですよ」
「ダマされてるのは自分だってのにな」
クリスは一瞬、文句を言いたい気分になったが、それは押さえ込んだ。……どうせ『気付かない方が悪い』と言われて終わりだからだ。
カランコロン……♪
軽いベルの音とともに店の扉が開かれた。その扉の奥からやつれた様子のエイプリルが出てくる。
「よう」
ノエルが片手をあげて彼女を迎える。エイプリルは小首をかしげて悩んでいたが、しばらくすると理解したようだ。
「クリスさんも気付いてるんですね。あたしたちが入れかわってるって」
「ああ。俺はうまくお前に成り切ってたつもりなんだがな。……すぐに見抜かれちまった」
「おお〜! すごいです、クリスさん!」
……ニヒルに笑うノエルにキラキラ瞳を輝かせるエイプリル。その二人を目の当たりにすると、本当に入れかわってるのだな、と実感する。……というかめずらしいものを見た。
「……まあ、なんというか。四人揃ったことですし、少し早いですが夕飯を食べに行きませんか」
「どこに行きましょうか?」
「俺に任せておけ。……気になる店があるんだ」
「…………」
三人が会話している間、クリスは固まっていた。どうやら頭がクールなノエルと無邪気なエイプリルを受け入れられてないらしい。
「クリスさん?」
「クリス、行くぞ」
「あ? ……ああ!」」
いまだ複雑そうなクリスをトランはおもしろそうに見つめた。
「まあ、慣れろって方が無理ですよねえ……」
それから彼はふと思いついたようにノエルへと話しかけた。
「そうそう、エイプリル。それはノエルの体ですからね。ノエルはあなたほど食べられないんだから食べ過ぎちゃダメですよ?」
「わかってる」
……無論、それは口だけだった。
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Scribble <2007,12,16>