Life with child

02


 いろいろ大変なことはあったがそれは省いて、今は宿の部屋の中。
 ノエルとエイプリルは農家に馬を返しに行っているので、ここにはトランとクリスが二人きり。
 クリスは所在なさげにトランのとなりにちょんと座っている。
(今思えばお姉ちゃんとか呼んだのがすごく恥ずかしい……。ぜ、絶対に中身は元のままだなんて言えない!)
「不安ですか?」
 クリスが落ち着かないのが気になったのだろうか、トランが声をかける。
「……へいき」
(みんな一緒にいるし)
「お腹空きましたか? でももうちょっと我慢してくださいね。もうすぐ二人が何かを買って来てくれますからね」
 はじめは外で食べてこようと思っていたのだが、よく考えてみなくても、クリスが上着を着ただけのすごい格好をしている。この姿で連れ回すのはまずいので何かをテイクアウトしてこようということになったのだ。
 ならついでに馬を返しにいこう、町でもう一頭借りて二人で行けば二人乗りにはなるが帰りも馬で帰れる。
 ……ということでノエル達が返しに行ったのだ。……落馬とか、してなければいいが。
「ただいまかえりました〜」
 ノエルが両手にたくさんの食べ物を持って帰ってきた。
 怪我も泥もついていないところをみると、さきほどの心配は杞憂だったようだ。
「いい子にしてましたか、クリスくん」
 机の上に食事を並べながら笑顔で尋ねる。クリスはそれにコクンと頷いた。
「クリス、こっちに来い」
 エイプリルがクリスを手元に呼ぶ。そして彼の長すぎる袖をきれいに折り上げた。
「あのままじゃ邪魔だったろう?」
「うん。ありがとう」
(い、いつになくエイプリルが優しい……。明日は雪でも降るのか?)
 じっと見つめてくるクリスの頭をぽんっと軽く叩き、椅子を指差す。
(座ってろ……ってことだよな)
 クリスが彼女の指示に従って座るが、背がまったく足りていない。
「クリスくんには椅子が低いですね。こっちへおいで」
 同じく席に座り、彼を微笑ましく見ていたノエルがそう言ってひょいっと膝の上にクリスをのせた。
「わあ!」
(む、胸!? 胸があたってますノエルさん!)
「あれ? なんで暴れるの?」
 じたばたと彼女の腕から逃れようとするクリスをおもしろそうに見つめ、トランが言った。
「複雑な年頃なんですよ。クリス、こっちにいらっしゃい」
 ノエルの腕の中からクリスを抱き上げ、自分の膝の上に乗せた。
「えっと……」
 戸惑うクリスの頭を撫で、優しく微笑んだ。
「おとなしくしてなさい?」
(これも恥ずかしいけど、胸押し付けられるよりマシかな。それに案外座り心地いいし)
「……うん」
 トランは満足げに頷き、彼の手元に食事を取り分けながら言った。
「さあ、いただきましょう。こぼさないように気をつけて下さいね」




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Scribble <2007,08,18>