Life with child

04


「あ、いたいた! トランさーん!」
 神殿での用事をすませた三人はトランとの待ち合わせ場所である公園にやってきた。
 トランが何故別行動だったかというと、たいしたことはない。彼が神殿に行くのを嫌がっただけだ。
 どうしようもない時を除き、トランは神殿に足を踏み入れようとしない。
「おかえりなさい。……何がいいですか?」
 そう言った彼の傍らには果物屋の屋台。この場で食べられるようにカットされた果物達が甘い芳香を放っている。
「え〜と……。あ、これがいいです!」
「お前のおごりか?  ならこれだ」
「……迷わず一番高いのを選びましたね、エイプリル」
 屋台だからしょせん値段もしれているのだが……。
「え、え〜とえ〜と……」
(わ、私もおごってもらってもいいんだろうか。トランが私におごってくれたことないんだけど)
 トランが何がいいか悩んでいるらしいクリスに話し掛けた。
「クリスは何がいいんですか? どれでもいいんですよ?」
「え〜と……。これ!」
 そうして指差したのはその屋台で一番安い果物。
 ……子どもなりに気をつかっているらしい。エイプリルとはえらい違いだ。
 公園のベンチに座り買ってもらった果物を食べる。
「おいしいね〜」
「うん!」
「あとでお姉ちゃんのとかえっこしようか?」
「うん、いいよ」
 ……などというノエルとクリスのやり取りを微笑ましく見ながらトランはエイプリルに話し掛けた。
「で、エイプリル。調査結果は?」
「ん」
 エイプリルが声を出さずに手を出した。
 それをぺちりと叩いてトランは言う。
「二つ目は自分で買ってください」
 エイプリルは舌打ちするとトランに紙の束を渡した。
「結果はそこに全部書かせた。人づてに聞くより確かだろう?」
「ああ、確かに。これで解呪の調査がはかどります」
 パラパラと流し見てから束を懐にしまう。
「さてと、宿に帰りますか」
「「は〜い」」
 屋台に受け皿を返してきたらしいノエルとクリスが気のいい返事を返す。
(……我ながら、子どもの真似がうまくなってきたような気がする)
「な、なんだか保父さんにでもなったような気がします……」
 それは、さすがにノエルに失礼だと思う。
 しかしノエルはそんな事気付きもせず、のんきにクリスとおしゃべりしてる。
「クリスくん、手を繋ごうか」
(……完全に子供扱いだ。っていうかすごく楽しそう!)
「うん!」
(もう、今更だよな?)
 歩くこと十数分、クリスが息をきらし始めた。
「大丈夫?」
「うん、平気……」
(た、体力が。子供の体って不便!)
 なにせ今のクリスは子どもである。いくら彼女達が気遣かってゆっくり歩いてもコンパスが違い過ぎるのだ。クリスは彼女等の倍、足を動かさねばならない。
 結果クリスは余計に体力を使うはめになる。
 しかも体力の半分以上を行き道で使っているのだから、彼がバテても仕方がない。
「おぶってあげようか?」
「……いい」
 顔を真っ赤にして、しかし気丈に返事をする。
「そんな強がり言って。はあはあ言ってるじゃないですか。ほら、こっちに来なさい」
 そんなクリスをトランはひょいと肩に担ぎ上げた。
「わあ、高い!」
「高いのは嫌いですか?」
「ううん、全然!」
(世界が違って見える! トランはいつもこんな世界を見ていたのか!)
 先程までの態度はどこへやら、うきうきと周りを見渡し始めるクリス。
「落っこちないでくださいね」
 ノエルに帽子を預けながら優しく話すトランに……
「はーい」
 彼にしっかり捕まりながら、とてもとても楽しげに返事をするクリス。
 はたから見れば仲の良い兄弟のようだ。
「トランさん、大丈夫ですか?」
「軽いから大丈夫ですよ。……でも早く帰りましょう」
「そうだな」
 ……その後、トランは部屋にたどり着いた途端、ばったり倒れてノエルとクリスを心配させた。
 …………やっぱり無理だったらしい。




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Scribble <2007,09,02>