You who might not encounter it



 いつもより賑やかな食事を終えて、各自、部屋で休憩することになった。スノウの体を湯で湿らせたタオルで清めてからベッドの上に転がし横になる。
「なんだか疲れましたね」
 忙しい一日だった。のんびり昼寝を楽しんでいたはずなのに、赤ん坊を拾ってしまって、その世話に右往左往。いくらスノウが手間のかからない子だとはいえ、小さな赤ん坊である。目を離すわけにはいかず、精神的に疲れてしまった。
「あう?」
 スノウが体によじ登り、こちらの顔を覗きこんできた。
「ん? なんですか?」
「あー。うぇう……」
 なんだか一生懸命に言おうとしているみたいだが何もわからない。
「寂しい?」
 スノウを捕まえて、体を横たえたまま高い高いをする。するとスノウはイヤイヤをするようにパタパタと暴れた。
「いじ……とー、めー!」
 本当に何を言っているのだろう。母親ならこの言葉を理解できるのだろうか。
「めー。めー!」
「めーめーって羊ですか」
 起き上がってスノウを膝にのせる。すると赤ん坊はトランの服につかまってその上に立ち上がった。
「れぅ、とぃ、なー!」
 スノウは必死に話しかけてくるが、全然わからない。
「わかりませんよ、スノウ」
 そう言って頭をなでると、ふてくされたような表情で座りこんだ。
「う……ふぇう……ぐすっ」
 なんだかすごく悲しそうだ。
「スノウ?」
 スノウの瞳から涙がこぼれだす。そしてそのままシクシクと泣き出してしまった。
「ス、スノウ?」
 あわてて慰めるがスノウはトランに抱きつき、メソメソと泣き続ける。親と離ればなれになってしまったストレスが今さらきてしまったのだろうか。
「スノウ、お願いだから泣かないでくださいよ。泣かれるとわたしまでつらい気持ちになる」
 そんなことを言ったところで赤ん坊が泣き止むはずもなく……。
「ひっく……ひっく……ひう」
 大声で泣いているわけではないから耳障りというわけではない。しかし、こう静かに泣かれると精神的につらい。
「スノウ、スノウ? 大丈夫ですよ。お父さんもお母さんもいないけど、わたしたちがいます。あなたは一人じゃない」
 抱きつくスノウの背を軽く叩いて、しっかりと抱きしめる。
「えーあー……そうだ! お隣に遊びに行きましょう! お姉さんたちが遊んでくれますよ」
 ……ようするに、トラン一人では手におえなくなったわけだ。ノエルはともかく、エイプリルが赤ん坊の遊び相手などするわけがない。
 風呂に行って部屋を留守にしているクリスに書き置きを残し、トランはノエルたちの部屋に向かった。




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Scribble <2009,09,06>