Optimal way
対なる装身具が動いたのを感知してその後を追う。
天使界からダーマの神殿へ、そこからセントシュタイン、ウォルロ村に移動してやっとその動きが止まった。
遠く高みから見下ろしたそこには探し求めていた弟子の姿があった。
人の友ができたらしく、とても自然な笑顔を浮かべていた。
「……ノーヴェ」
声をかけてやればきっと彼女は戸惑いながらも喜ぶだろう。そして笑顔で自分の友達の事を紹介してくれるはずだ。
だが今の自分には彼女に声をかける資格はない。
「あれが貴方のお弟子さんですか」
人ならざる声が耳をざりざりと通過する。
「……何の用だ」
「監視ですよ。弟子かわいさに裏切られたら困りますからね」
「……心外だな」
裏切りなどしない。……元より仲間になったつもりもないのだから。
「まあ、いいでしょう。そうそう皇帝からの命をお伝えします。『女神の果実を集めよ』だそうで。……おや? あなたのお弟子さんの受けた命と同じですね?」
歯をくいしばって罵倒の言葉を抑え込む。
「……問題ない」
「お弟子さんと奪いあうのは辛いのではないですか。なんならその苦しみを今取り除いてあげましょうか」
翼を大きく広げ視界を遮り、その行動を抑止する。
「私が直接地上で果実を集めるのは無理がある」
「おや、何故です?」
「人は翼ある私の姿を見咎める」
「私達があなたの光輪を奪いましたからね」
気づかれぬように唇を噛み締める。ブツリと皮膚が裂けて血が溢れたが些細な事だ。
「……ならば代わりに彼女に集めて貰う事にするさ。翼も光輪もなくした私の愛弟子に、な」
文字通り、血をにじませて心にもないセリフを吐き出す。
彼女を利用したいわけではない。ただ自分が彼女と争いたくないだけだ。
自分を信じきっている彼女を傷つけたくない。……いや、それ以上に彼女に問われたくない。
きっと、自分は弟子に問われてしまったら……沈黙を貫く事ができない。
「弟子が全ての果実を集めきったら奪い取る。それでいいな」
「まあ、いいでしょう。くれぐれもおかしな真似をしないように」
「……」
魔獣化した魔術師が確実に立ち去ったのを確認しつから気をゆるめる。
「……ノーヴェ」
視線の先には自分とラフェットが贈った装身具を身に付け笑う弟子の姿。
今、彼女が友人らに向けられている笑顔が自分に向けられる事はもうないだろう。
だが、それが自分の選んだ道なのだ。
裏切り者とそしられようと、弟子を傷つける事になろうとも、天使界とあの方を救う事には、これが最善なのだ。
「……さよならだ」
笑う弟子の姿を心の奥底に焼き付けて、イザヤールはウォルロ村を後にした。
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Scribble <2010,07,11>