朝に関する五つのお題

Rise
アリアンロッド・ルージュ


「んー。よく寝た!」
 クリスはベッドから起き上がると大きく伸びをした。部屋の中を見回してみると、同室の仲間たちは一人を除いてみんな眠っているようだ。
「トラン、朝だぞ。起きろー」
 小さな声で呼び掛ける。いつもならそれで起きるはずの彼はむにゃむにゃと寝言を言うだけで目をさましそうにない。
「……思えば変わったな、私たちも」
 昔、出会ったばかりの自分たちは競いあうように早起きしていた。寝首をかかれぬようにと、浅い眠りにしかつかず、我先にと起床していたのだ。
 それが今ではどうだ。
 手にかけれる位置まで近づいても、惰眠をむさぼるくらいまで気を許している。
「起きろー。起きないと落書きするぞー」
「キミは人の兄に何をする気だ」
 ……ダンディーなひげを書き加えてやろうとインクを用意してきた所で、頭をガッシリと捕まれた。メイジだから握力はたいしたことはないが、食い込ませるようにたてられた爪が痛い。
「レント、離してくれ。もうしないから」
「当たり前だ」
 それにしても小声とはいえ、間近で騒いでいるのに、トランは起きようとしない。ずいぶんと深い眠りについているようだ。
 ……そういえば昨日は夜遅くまで本を読んでいたな。
「兄さん、朝です。起きてください」
 トントンとレントが叩くが何の反応もない。
「兄さん?」
 布団を剥いでみたが、寒そうに身を丸めただけで起きない。
「……やっぱり落書きしてやろうか、こいつ」
 ひげ以外なら瞼に目とか、ぐるぐるほっぺが定番だろうか。あとは額に肉? ……いや、どういう意味かは知らないが。
「……」
 再びインクを持ち出したクリスの手をそっと押さえてレントは首をふった。そしておもむろにトランに手を伸ばし……。
 ギュウッ!
 ……と鼻をつまんだ。
「……痛っ! な、なに!? 一体何が……って、レント! いったい何をするんですか!」
「あなたが寝こけているから悪いんです」
「え? え〜と。もう朝?」
「朝です」
「私も何度か起こしたんだぞ」
「はあ、そりゃどうも。……やっぱり夜更かしはいけませんね」
「まったくもってその通りだ。さあ、早くノエルたちが起きる前に着替えて」
「……もうあさですか〜」
 三人が揃って声のした方に顔を向けると、ノエルが眠そうに目を擦りながら起き上がる所だった。そしてなぜか正座をしてへにょんとお辞儀をする。
「おはよー……ございますー」
「おはよう、ノエル」
「おはようございます、ノエル様」
「おはようございます、ノエル。でももう少しだけ布団を被ってもらっていいですか。着替えてしまいますので」
「はいー」
 ノエルがもそもそと布団を被るのを待ってから、トランは立ち上がり、服を脱いだ。
「そのまま寝てしまっては駄目ですよ」
「はいー」
 ノエルの眠たげな声に笑みをこぼしながらテキパキと服を着替えてしまう。そしてそれを終えるとノエル入り布団をポンポンと叩いた。
「もういいですよ」
「はひ……ふ、ふわあぁぁ」
 ノエルが顔を出すのと同時に大きなあくびをした。思わず笑ってしまいそうになるが、ぐっと堪える。
「わたしはレントたちと朝ごはんの支度をしてきますから、着替えてエイプリルと一緒に来てくださいね」 こんなほのぼの空間を作っているその隣では……。
「エイプリル起きろー」
「……うるさい」
「……危な! 銃を向けるなよ!」
「……うるさいと言っている」
 パァン!
「ギャー!」
 ……大変な事になっているようだ。
「やれやれ。毎朝大変だな」
「ですねー。でも……楽しいでしょう?」
 その問いにレントは口許をゆるめた。その表情を見れば彼の答えは明確である。
「さあ、朝ごはんを用意しに行きますか」
「そうですね。……クリス、行くぞ」
「あ、ああ」
 いまだ眠たげ(一人睡眠中)な女性陣を残して、男たちは部屋を出ていった。




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